「猿酒」
今はすでに解散されたと聞いていますが、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎元教授は、なんと一九九五年から十七年間に亘って、西アフリカ・ギニアのジャングルに野生のチンパンジーを追い求めてきたというのですから驚きです。
よくぞご自身も野生化してしまわなかったものだと感心してしまいます。
松沢先生は、その十七年の間に二十回あまり野生のチンパンジーが酒を飲むところを観察したということです。ほぉ~、野生のチンパンジーが習慣的に飲酒すると!
酒というのは、現地の人がヤシの木の樹皮に傷をつけ、そこから出る樹液を容器にためて自然発酵させて作るヤシ酒のことなのだとか。これをチンパンジーが人の目を盗んで失敬するというのです。……まったく、けしからんサルですな。
これとよく似た話は、アフリカまで行かなくてもわが国でもあります。
古来より「猿酒」の存在が、日本各地に語り継がれていることをご存じでしょうか。ただし、こちらの方は人の方がサルの作った酒を失敬するのですが。
サルが秋の間に木の実や果実を樹木の股や洞に貯め込んでおいたところに、雨露が溜まって自然発酵し、酒になるのだとか。これを見つけた木こりが、家へ持ち帰って布で濾して飲んでみると、これが結構イケたというではありませんか。……まったく、けしからん木こりですな。
まあサルにしてみれば、食料が乏しくなる冬のことを考えてのことでしょう。決して酒を造ろうという意図はないと思われますが、それでもアルコール発酵した木の実を食べるということはあるのでしょう。
サルの赤ら顔は、「猿酒」を飲んでいたからだという伝承があっても面白いと思うのですが、残念ながら私の調べた限りにおいてそのような話は見当たりません。
ヒトも酒を飲めば、サルも酒を飲む。ヒトもサルもアルコール分解酵素を体内に持ち合わせていて幸いでしたね。