潤いのある人生
とある小学校の低学年の教室で、「お父さんの仕事」を調べるという授業があったそうです。
「ボクのお父さんは農家で米や野菜を作っています。米や野菜がなければ人間は生きていけないから、お父さんは人のためになるりっぱな仕事をしていると思います」
「ボクのお父さんは、警察官です。交通課で毎日交通事故が起きないように頑張っています」
「私の家の仕事は八百屋です。近所の人が毎日野菜を買いに来るので、お父さんは一日も休めません。お父さんの仕事は近所の人のためになくてはならない仕事だと思います」
子どもたちはこのような発表をしたということですが、その中に友達の発表を黙って聞くだけの子どもがいたそうです。その子の家は酒屋を営んでいたそうで、家へ帰って父親に泣きながらこう問いただしたというのです。
「お父さん、友達の家のお父さんは、みんな人のためになくてはならない仕事をしているのに、お父さんの仕事は別段なくても誰も困ることがないのじゃないの?」
さて、もしあなたがこの子の父親だったら何と答えますか? 咄嗟に私も何と答えたらいいのかことばに詰まります。
この子の父親の答えはというと、これがすこぶる秀逸で、私は涙が出るほどうれしかった。
「確かにお酒がなくとも人間は生きていくのに困らない。でも酒を一滴も飲まない人生は、はたして潤いのある人生と言えるだろうか? ……お前にもきっとわかるときが来るよ」
十数年の後に、この親子が二人差し向かいで酒を酌み交わしている風景が目に見えるようではありませんか。