奥会津の人魚姫

(2)

「ちぃちゃん、お願いだからもうこれ以上お酒はやめて。ここのところ、ちぃちゃん私たちが作ったご飯も食べないで、お酒ばかり飲んでるでしょう? ちぃちゃんまで病気になってしまったら、私たちはどうなってしまうの……?」

俺はお前たちの面倒を見るためにここに来たんじゃないんだ、と言いかけて、その言葉を千景はぐっと飲み込んだ。代わりに酒を口に運ぼうとした瞬間、汐里が千景のところまで駆け寄ってきて、さらに畳みかけた。

「お願いちぃちゃん、お酒はやめて」

「頼むから、ほっといてくれ」

「ねぇ、ちぃちゃん………」

「うるさいっ!」

千景が汐里を勢いよく払いのけようとふり払った手が、汐里の頬に当たり、汐里は大きく飛ばされて、囲炉裏の木枠に頭を打った。たまたま当たった箇所が悪かったのか、汐里の口から鮮血が垂れた。汐里は、まったく予期していなかった突然の出来事に、軽いパニックを起こし、大きな叫び声を一つ上げた。

「汐里、大丈夫?」

すぐに乙音が駆け寄ったが、汐里の興奮は収まらなかった。

「ちぃちゃんは結局、自分のことしか考えてないんだ。今めぶき屋はお母さんがいなくなって大変だっていうのに、自分だけお酒に逃げて、私たちのことなんて、これっぽっちも考えてくれないんだ。子供が好きだなんて言ってたくせに、私たちにだってあんなに優しくしてくれてたくせに、いざとなれば、みんな…………みんな捨てちゃうんだ」

どうしていいかわからずにうろたえる千景に対して、さらに汐里は言葉を重ねた。

「出ていけばいいじゃない。我慢してここにいないで、あんたなんか今すぐここから出ていけばいいじゃない」

わっと泣きながら、汐里は自分の部屋へ駆けていった。