そこで慌てて
「尤も『俺に任せろ!』という自信満々タイプでは赴任直後から糸の切れた凧のように勝手に動くので危ないと判断されたのかも知れません。そもそも古代さん自身がそのタイプだから自分と同じタイプでは上手く行かないと避けているのかも知れませんが……」
と付け足した。すると、我輩のご主人曰く、
「うーむ、古代さんの本当の考えはよく分からんが、なんでも彼が言うには
『自分が行けば日米の国交調整など簡単だが今日本を離れる訳にはいかない。米国と国交調整する前に他国と協調して日本の立場を強固にしておきたい。それまでは米国との争いは何とか避けたいので儂に駐米大使をお願いして先方との関係を上手に処理して欲しい。外務省にはそういうことができる人間が他におらんのだ』
ということだった」
我輩はその頃までには我輩のご主人の気質、性格、器量、度量など大体理解していたので、
「しかし、本省にいなくてもOBとか現役の大使の中に適材はいると思いますよ。それに外部からといって、よりによってご主人様に白羽の矢が立つのはどうも解せなくて……」
と食い下がった。我輩のご主人は相変わらず憮然とした顔をしていたが、構わずに更に追い打ちを掛けるように、
「私は古代さんの人となりをよく知りませんが、聞くところでは彼は長州の人間によく見かける自信過剰の典型ですね。ひょっとすると自分が直接日米交渉の陣頭指揮を取る時期が来るまで、『勝手な行動を取らず、忠実で従順、決して裏切らない人間』を物色していて、その一番候補に上がったんじゃないですか? もしそうであれば馬鹿にされているような……」
とまで突っ込んでみた。さすがにこれには我輩のご主人もカチンときたのか、
「うーむ、ま、そう言うな。人間誰しも自分が動きやすい人間を配置したがるもんだよ。儂もそう易々と相手の調子には乗らんから心配するな」
と言ってむんずと口を閉ざしてしまった。