「黒い森でのカトリーヌ」

「月の光に照らされた島」の真ん中を成すのは「黒い森」。

赤や茶色やフカミドリの木たちのコントラストが膝を抱えてうずくまっているから、遠いところから見ると黒に見える。

僕の自慢の黒毛のエナメルの輝きには負けるけどね。

黒い森には悪魔的な静寂が横たわっている。

僕は時々、この森にやってくる。

誰もいない僕だけの黒い森。

島の人たちはこの森に入ったら帰ってこられなくなると言っているけど、かえって僕は落ち着くんだ。森の少し分け入ったところにある人面草の群生は、僕がしっぽで撫でるとむらむらパッと首をもたげて歌い出す。

丸い棘がニョキニョキ動くオニモウセンゴケはいつもお腹を空かせていて、思春期の女の子みたいで煩わしい。

黒い樹木の生い茂る中のぽっかりと開いた明るい地面には、ドラゴンフラワーが咲いている。黒い森には大昔、竜が棲んでいたんだって。最後に生き残った竜の白骨の上には、今でも秋になる少し前に小さな真っ白い花が咲く。

黒い森は綺麗だよと、僕はワルツさんに教えてあげたいとよく思う。雨上がりの森は隅々まで真っ黒で、おいでおいでって僕に向かって口を開ける。

濡れた葉っぱは一斉におしゃべりを始める。そしたら、不思議なことに僕はシンとなる。僕に秘密を打ち明ける葉っぱもいるんだ。死んで無口になった葉っぱは、樹の根元で静かに朽ち果て、森を育んでいる。