ないとなると無性に欲しくなるのが人情である。直ちにJR西大津駅前のスーパージャスコの四階にある旭屋書店へ赴いた。テキスト関係の本が並んでいる書棚を一通り見て歩いたが見当たらない。

仕方なくカウンターにいる店員に話して探して貰ったが、やはりなかった。大津ではあと大きい書店と言えば、パルコの五階にある紀伊國屋しかない。旭屋になければ、多分紀伊國屋にもないかも知れないと思いつつ、直ぐさまその足で、パルコへ向かった。

私はいつも本屋へ行った時、最初は必ず自分で探し、どうしても見つからない場合に店員に聞くことにしている。早速五階の紀伊國屋ヘエスカレーターで上がり、テキスト類が並んでいる書棚を眼を皿のようにして探してみた。すると数分後、NHK人間講座、藤原正彦という文字が私の眼の中に飛び込んできたのである。われながら自然と相好の崩れるのが分かった。何だかとても嬉しい気持ちになった。

表紙を見ると、天才の栄光と挫折、数学者列伝と書かれている。更に中を開くと、この人間講座は八月~九月にかけて、毎週二日間、都合八回に亘り放映予定されており、ラマヌジャンは六回目で、あと七回目が国家を救った数学者アラン・チューリング。最終回が超難問、三世紀半の激闘アンドリュー・ワイルズとなっていた。幸い残り二回の講座は、テキストと一緒に視聴することができた。

ちなみに第一回が神の声を求めた人、アイザック・ニュートン。第二回が主君のため、己のため、関孝和。第三回がパリの混沌に燃ゆ、エヴァリスト・ガロワ。第四回がアイルランドの情熱、ウィリアム・ハミルトン。第五回が永遠の真理、一瞬の人生、ソーニヤ・コワレフスカヤとなっている。

数学については全く門外漢の私が、何故これらのものに興味を持ったのか。それは夫々の天才達の儚い栄光と悲惨な運命、そしてその壮烈な生き様に心を惹かれたからである。少し長いが、藤原教授のテキストの冒頭の部分を概略引用させて頂く。そこに天才の凡てが凝縮されていると思ったからである。

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