第一章 不思議な出会いからの始まり
土曜日の夜、約束通り猫はやって来た。今更ながらこの不思議に驚嘆するが、嬉しい気持ちで猫を見る。
「今晩は。久しぶり、元気だった?」
「一週間しか経ってないだろ。聞きたい事とか近況報告があるなら言えよ」
随分威張った言い方の猫に、ちょっとムカッと来るがそこは抑えて、何か言わなければと考える。
「んぅーん! 友達の幸子ちゃんが名古屋の公立高校受けるんだって、私は高校推薦で私立へ行くんだけど、この時期頑張る子は頑張っているんだよね。どう思う、私もっと頑張った方が良かったかなぁー」
すると、猫は眉根にシワを寄せたような顔付きになった。本当に表情が見て取れるようになったよ。
「お前さぁー……」
何か言おうとした猫を遮って、私は聞いてみる。
「あっと、名前聞いてなかったね、なんか凄い名前だったりして。外国張りにセカンドネームまでありますとか、なんちゃって!」
「名前なんて無い、猫でいいよ」
吐き捨てるように言う。そんな猫にちょっと甘えるようにすり寄ろうとしながら私は、
「えぇーっ、そんなの呼びにくい。これから頻繁に会うのに!」
「あのなぁ、今の話聞いて思ったんだけど、頻繁に会わなくてもいいんじゃねぇ」
「ダメだよー! 地球の危機とは言わないけど地域と言うか、この町に危機が迫った災害とかが起こった時、長年の知恵袋、大賢者お猫様が解決というか知恵を出して町を救わなければ。その時は私が手足となり猫の言葉を皆に伝えるの。だからそのためにも連絡は密に取り合わなければ」
私は将来起こるかも知れない災害の時に、猫の指示を受けて町の皆を救う自分の姿を思い描いてみた。何だかうっとりしていると猫が言う。
「そんな事にはならない。災害派遣には自衛隊が来る。小規模な物だったら消防の方でやれる。また市役所の相談窓口では話を聞き、取り計らってくれる……ということでお前の話は家族か友達に話せよ。じゃ、そういうこと。またどこかでな」
言うだけ言うと猫は出て行こうとする。
「会ってくれないなら、皆に話しちゃうよ……いいの?」
脅し文句で迫る私に猫は、
「頭のおかしい奴と思われるだけだ。思春期の受験を控えた不安定な精神状態における問題行動の一つと受け取られるだろうな」
猫は冷静に判断した結果を告げる。ーー確かにお説ごもっともと思った私、
「ならさぁ……何時もどの辺りに居るの、会いたくなったら私が行くから」
とそう聞いてみる。
「訪ねて来られても別に話す事はないが、大体は八幡社の所で寝ているかなぁー」
猫はのんびりと言った。
「なぜあそこに? もっと日当たりの良い風通しも良い所あるのに?」