第一章 不思議な出会いからの始まり
ゆっくりと淡々と語る猫は続きを話し始める。
「俺は何か脅かす訳じゃないからな、ただ平和に暮らしたいだけなんだ……お前の母親とは彼女がまだ元気だった時に話をしたんだ。その頃もらった野菜で美味しさを知った。お前の所の畑は窒素リン酸などの多量要素とイオウ鉄塩素などの微量要素がいい感じで含まれており㏗的にも中性で野菜の生育には打って付けで水はけもいいし、美味い野菜が採れるのよ」
猫は私の知らない言葉を羅列しまくり、満足げに唸っているようだ。私はそんな猫に活を入れてやりたいような気分になる。
「pHとか何とか要素とか随分詳しいねぇー学者様ですか? 何かムカつく!」
「長く生きていると知らず知らずのうちに知識が身に付く、まあもともと知恵者だがな」
猫は偉そうに言うのだが、何か見慣れてきたせいか表情まで出て来たように思う。
「それでこの十日余り、他の畑の物を食っていたんだが今夜はあのトマトが食べ頃だなぁと思った訳だよ。多分お前が居るだろうとは思ったけど、まっ来たわけだ。俺は危害を加える訳でもなし、季節の良い時はプラプラ野良猫で暮らし、寒くなったらどこかの家猫で暮らす。……人間に迷惑掛けていないだろ」
猫はここ十日余りの戦々恐々とした私への迷惑は省みずそう言うのでした。
そして新たに知った猫の脅威。
「じゃ、今まで通り見ても知らん顔して生活しろと言う事ね。私の考えている事が知られているのに!」
「だから集中しないと聞こえないって言っているだろ!」
虹彩が三日月になった怖い猫目で睨んでくる。
負けるものかぁー。私も睨み返して言ってやった。
「集中しているか、いないかなんて私にはわからないもの!!」
猫は諦めたような声をあげ、諭すように言うのでした。
「―わかった。ーもうなるべく現れないようにする……それでいいだろう」
「誰かに話したくなったらどうしよう! 秘密って共有する人がいないと……しゃべりたくなるんじゃない? 王様の耳はロバの耳なんて~~」
このまま終わらせたくなかった私は、ちょっと脅してみました。
「わかった。一週間に一度、土曜日の夜、お宅の部屋で近況報告するという事でいいか」
猫は渋々という感じで解決策を出してくれた。
「OK! 何か決めておく事ある?」
私は嬉しくて軽い感じで聞いてみると、
「無いよ、俺のことは放っておいてくれ」
と返ってきたのは冷たい言葉だった。
めげずになおも私は聞いてみた。
「ちょっと待って、他に能力的なものはないの? 空を飛べるとか人間に変身できちゃうとか、何か特技的なものないかなぁ~」
「お前、面白がってねぇか? ……だから子供は面倒くせぇんだ。年寄りなら知られても、そういう事もあるわねぇ~、ぐらいで話は終わるのによぅ」
猫は来た時と同じように、するりと窓から出て行った。
はあ~、濃密な時間だったわ……そう言えば、まだ名前も聞いてなかった。あれやこれやと猫が居なくなってからも色々考えて、なかなか寝付けなかった私です。