「本当に、勉強、しました」
彼は香草をスプーンに乗せて、神妙な顔をした。
「でも、自分は、仕事をしています。毎日。会社で、ユースフル、役立っている。休める場所、自分の部屋が欲しいですから、次、陳さんに、頼んでみます」
「いいね。陳さん、頼れるよ」
彼と話す時、つられて少しカタコトになってしまう。そんな奇妙なやり取りもこれで最後かと思いながら、空になった器をいつまでもナンで拭っていた。
私以外にも頼れる人がいることに、少なからず安心した。彼はもともと社交的で協調性があり、チームのみんなともうまくやっていた。助けを求めれば力になってくれる人は多いだろう。
帰りの電車に揺られながら、闇夜の遠景を眺めた。突如、駅のホームが至近距離に現れて猛スピードですぎ去った。そこに立つ人影が水柱のように形を崩すのを目にして、不意にその景色の一部になりたいという思いに駆られる。窓を開けて頭を出していれば、いずれ通過する鉄柱に思考も身体もすべて預けられるのではないのだろうか。
人の群れにまぎれて改札を抜けた。鋭い冷気が頬を刺し、一瞬息が止まりそうになる。
だが、肺で空気が温もるにつれて、呼吸が楽になっていった。街灯に白んだ暗闇が頭上に広がっていた。駅前に響くクラクションや、居酒屋の喧騒に身を任せ、通りを流されるように進んでいく。街はエネルギーそのもので、目を閉じていても自然と足が前に繰り出された。
だが、住宅街に近づくにつれて次第に活気はなくなっていく。人の背中も減っていき、身体が冷気にさらされる。それぞれに帰る場所があり、迎えてくれる人がいるのだ。私は再び、自分の足でアスファルトに踏み出した。
つい数か月前のことのはずなのに、年月を経た思い出のようだった。