一章 帰郷
長い間両親を探していたので女の子は息が上がっていた。徐々に歩くスピードが速くなってしまったのかもしれない。悪いことをしてしまったと反省の気持ちを込めてジュースを買ってあげることにした。
お金を取り出すために財布を取りだした時、財布のファスナーに引っかかってパスポートも一緒に落とした。
女の子はすぐにしゃがみパスポートを拾ってくれたがすぐには渡してくれなかった。
パスポートに書かれている国旗を見たのだろう。女の子の顔はついさっきまで見せてくれた純粋な笑顔を忘れさせるくらいこわばっていた。しまいには手を強く振り払い、勢いよく俺のもとから離れた。次第に女の子を見失ってしまった。
このように開戦前はどこの国へも行き来できていたものの、それぞれの国が子供に歴史を教育する内容はセンター国を批判するものばかりであるため、海外の幼い子供でも俺の国は、自身の血を見るよりも、とんでもなく恐ろしい国だと認知していたのだろう。
何してもセンター国の国民として世間からは見られる。善人らしく振る舞ってもセンター国の人間は悪人と教え込まれている以上、おもてなしはされず嫌われる。それは覆すことなどできない。海外訪問で出会った女の子にそれについて気づかされたのだ。
俺が両親とはぐれることになったきっかけでもある、最初で最後の両親との海外旅行で文化の違いに衝撃を受けた体験をもう一度味わうために出た旅行を、こういう結果で終えるとは後味が悪すぎた。
というわけで俺はこの国が嫌いである。何もこの国の全てを嫌ってはいなかった。一方的に向けられる厳しい批判だけで、歴史に載らない現代は嫌われる外交をしておらず、良い方向に進んでいると思っていた。ところが、センター国が侵攻を始めると徴兵され、国王や政府など全てが嫌いになった。歴史は繰り返されたのだ。
しかし、そんなことはもうどうだっていい。戦争は予想されていたほどたいして大きなものにはならず、予期しないことに休戦状態になったのだ。これで任期が延長されていた兵士生活を終えることが出来る。