任期中に開戦したこの戦争は、覇権奪取戦略の第一歩としてセンター国の北にある国、「ノース国」に仕かけたもの。

センター国はちょうど東西南北四つの国に囲まれている。

東、イースト国

西、ウエスト国

南、サウス国

北、ノース国

周囲を他国に囲まれているこの不公平な地形で侵略戦争を始めるなら、四方からの総攻撃に合うことを想像できなかったのか。それとも四カ国を合わせても対等かそれ以上の軍事力を持っていると思い込んでいるのか。考えるほど、ますます情けなくなってくる。

センター国の絶体絶命な未来を救ってくれたのは東のイースト国だ。北のノース国がセンター国を含めた五ヵ国で一番の経済大国であるが、東のイースト国は他国と多少の外交はあるものの、ほぼ鎖国状態で大半の情報が不明。全くイースト国の意図が読めないところから、この国が最も恐ろしい国ともいえる。

そんな国からノース国との戦争を休戦するように申し立てて、同盟を組まないかといわれたらセンター国の政府は勿論要求を呑むだろう。イースト国が盾となれば他の国は手を出せなくなる。センター国の命運はイースト国が握ることになるが、ひとまず国家崩壊は免れた。

ノース国との戦争では結局領土を全く奪い取ることが出来なかった。

前線にいる歩兵部隊は十五部隊もいる。一つずつの部隊が大規模であるのでさらに何百ものグループに分けられる。

休戦協定をノース国と結んだことによりこの十五歩兵部隊が一度に前線侵略本部があるこの拠点に押し寄せてきた。この拠点は今回の戦争のために作られた仮設の基地。ここから部隊の派遣や情報収集をしていたようだ。

混乱を招かないように到着した時点で部隊は解散することになった。

バスの送迎が始まったので、バス停に行ってみた。しかし、まず派遣されていなかった部隊の連中たちが咄嗟に並び始めている。ああいう奴らがそれぞれの地元で活躍を自慢するあざとい人間なのだろう。

日が暮れてきたが、この人数だと今日は乗れそうもなかった。

拠点に戻ってから荷物を整理した。他の連中はまだ任期を終えていないから荷物は軽い。このままそれぞれセンター国内の基地に帰るのだ。任期を終えた俺は、人一倍荷物が多い。帰りに軍から支給されたのはペットボトル一本とドライフルーツだけ。それに、何に使うかわからない緑色の紙切れを配られた。

靴を脱ぎ棄てて、緑色の紙切れをポイ捨てし、拠点のバスターミナル付近の青いベンチに寝っ転がり、冬明けの寒い一夜を明かす覚悟をした。

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