一言で言えば、バーバラの学校には余裕がなかった。

中学生と高校生の両方の面倒を見るだけでも保健室の仕事は目まぐるしいが、忙しい時に限って次から次へと雑用が押し寄せる。そうなると優しい気持ちなど持てない。

「先生、大丈夫?」と生徒に言われ、ハッとしたこともある。

そんな時は決まって「もう限界だ!」と弱気にもなる。

しかし、バーバラを学校に留めさせる小悪魔たちがいる。

あなたなしでは生きられない。そんな目でバーバラを見てくる生徒たちがいるのだ。悲しいかな、バーバラは頼られると嫌とは言えない性分だ。

「頼られちゃあ~、仕方ないな」

そんなバーバラにとって、教え子たちは唯一の財産である。

教え子の中には医者、弁護士をはじめ、プロスポーツ選手や芸能界で活躍している子もいる。やんちゃばかりして、しょっちゅう警察の厄介になっている子もいる。

それぞれ違う人生を歩んでいるが、バーバラにとっては、できの良さ悪さなどは関係ない。皆かけがえのない存在なのだ。

教師になりたての頃は、「美しい心」「美しい魂」を持った者が真の教育者であると信じてやまなかった。

しかし、世の中は汚いもの、残酷なもので溢れている。それに蓋をし、目隠しをし、「美しい心」を守り続けることはできない。

歳を重ねるごとに矛盾が募った。綺麗事では済まされないことが多過ぎて、バーバラの心の中に相反する感情が入り乱れた。ドロドロしたものが、心の端っこから漏れ出してくるのだった。

(無力な私が、先生と呼ばれること自体申し訳ない)こう思い、涙したこともあった。

が、しかし、時の流れはバーバラを図太くした。

そしてバーバラは確信を得たのだ。

教育は「今」だけではなく、一生続くのだということを……。

卒業して何年経っても、教師の言葉が背中を押してくれることがある。

その時初めて、教育の真価が問われるのだ。

そう確信できるようになってから、バーバラは変わった。

弱気になった時は、決まって心が叫んだ。

(カッコつけるな! 生徒のためになるなら、たとえ笑われてもいいじゃないか!)

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