【前回の記事を読む】「少しの間だけ病院にお泊まりをするからね」3歳の息子を置いて乳がんの手術を…

第1章 左乳房 ~33歳、乳がんになりました~

病室のメンバーは同志

入院をすると色んな看護師がいた。年代は様々だが、明るく愉快な人が多かった。

入院初日、ちょっと厳しい感じの看護師から私自身のことを確認された。

「あなたは何の手術をするか知っている?」

「ハイ、乳がんで全摘です」

「ふーん、知っているのね」

不安はあるが覚悟はしていたので、普通に話す姿をノー天気に感じたのかもしれないが、きつい質問だ。

人には第一印象というものがあり、それは結構当たると思っている。顔つきや表情、話し方にその人となりが出る。私が今までに出会った中で、「つり目」の人はきつい印象を持ちやすいが、ここはちょっと違って話してみると優しい人が多いのがつり目さんだ。思い込みや先入観で判断してはいけない。人は関わってみないと分からないことがたくさんある。

ナースキャップに線が複数入った他のベテラン看護師は忙しく動く中でもちょっとした合間に色んな深いい話をしてくれた。テキパキと仕事をこなし、ぱっと見にも頼りたくなるムードがある。痛くて動けず辛い時に身の回りの世話をしてくれるので、看護師は本当に天使のようで眩しく映る。

ある日、四人部屋で事件が起きた。

外科なのでガンや盲腸など病気は様々だが会話が弾む四人患者で、その中の一人に70歳過ぎの愉快なおばあさんがいた。初日の看護師のきつい質問の直後に和ましてくれようと明るく話しかけてきた。

「私もあちこちのガンなのよ。人工肛門もついてるし。お腹は山の手線と中央線もあるの」と強烈な話で、とても笑えないのだがそのおばあさんは笑って話してきた。

「人工肛門は大変なのよ。いつ出てくるか分からないから家では24時間お風呂を沸かしてるの。俳優さんにも人工肛門で袋をつけてる人もいるのよ」と知らない世界の話で、ただうなずくばかり。

その話を聞いた日の夜、8時前後だったか「歯でも磨こうかな」と思っていると、愉快な70歳過ぎのおばあさんの声がした。

「あっ、あっ、あああああ~~~」ベッドの横に立ち尽くしている。

おばあさんは着替えていたのかお腹が出ていた。そして物も出てきたのだ。

「これだから嫌になっちゃうんだよ~、あーあ、パジャマがないんだ」とつぶやいた。