第1章 左乳房 ~33歳、乳がんになりました~
まるでドラマのように
「先日の検査結果が出たので話をします。仕事を終えてからでも良いので来てください」と病院から職場に電話が入った。職場には友人のT看護師がいるのですぐに相談をした。「とにかく早く行ってきな」と背中を押された。
息子の直太朗を保育園へ迎えに行き、自転車の前カゴに座らせて病院に向かった。その途中、夫のケンさんに成り行きを知らせた。午後の診察時間はとうに過ぎているので待合室はがらーんと静まり誰もいない。診察室のカーテンを開けて「すみません」と声をかけると年配のベテラン看護師が顔を出した。
「お待ちしていましたよ、今先生を呼んできますね。中にお入りください」と促され診察室に入るが、長椅子の周りをパタパタと走り回る2歳の直太朗に二人の看護師が「ちょっと、こっちで遊びましょう」と優しく声をかけて連れ出してくれた。
直太朗が出ると同時に外科医が入ってきた。
「検査の結果は、悪性の腫瘍です」
「……」
言葉が出ない。
「……」
やっと浮かんだ思いは「ドラマみたい」。外科医は紙を出しイラストのように描いてゆっくりとした口調で説明をしてくれた。
「腫瘍の種類は浸潤型でジワジワ広がるもの」
「別の種類で『非浸潤型』という、そこにとどまるものがあります」
私の場合は周りに広がる、たちが悪い浸潤型の方だ。
「1日も早い手術が必要です」
「腫瘍のある場所によっては温存手術もありますが、ここは乳頭から近いので温存はできません。全摘となります」ということをレントゲンやエコーの写真を見ながらもイラストで描き丁寧に説明をしてくれた。
「腫瘍の大きさは7~8ミリ。1センチ以下だね」
「手術は他の病院でも構いませんが、早めの手術をした方が良いです」とセカンドオピニオンの話もしてくれた。
「うちの病院でするのならば部分切除で検査、入院と手術は○日で」と具体的な話も出た。
「家族と相談します」と返事をするのがやっとだった。
頭の中は真っ白になっていた。外科医の説明を聞き終えて診察室を出ると、看護師から直太朗を引き渡された。2歳の直太朗の小さな手をとり看護師に頭を下げた。看護師は温かいまなざしで、そーっと私と息子を見送ってくれた。
病院を出て自転車に乗りペダルをこいだ。帰り道は、頭がぼーっとして道を間違えた。「おおお~~。道を間違っちゃったね」と前カゴに座る息子に言い訳をしながらUターンをした。家の中に入るとケンさんが玄関まで出迎えてくれたので、靴を脱ぎながら、
「悪性なんだって」
そして、ガンの性質や手術の方法、病院選びについて今聞いて来たばかりの外科医の説明をすべて伝えた。
「すぐに手術しよう」と二人で決めた。