「本の虫カトリーヌ」
本屋「五番目の季節」にはたったひとりだけ、毎日来る人がいる。
それは、ミルクの配達人。
朝、届けられるミルクは僕とワルツさんの分。
二本のミルクをワルツさんが僕に少し分けてくれる。
夏は冷たいのを、冬は温めて。
僕はとりわけ温かいミルクが好きだ。温めたミルクの匂いが本屋の隅々まで広がると、くすぐったくなる。
くすぐったくて、笑ってしまいそうになる。
だけど、僕は我慢するんだ。
僕はかっこいい、シニカルなブラック・リュシアンなんだから。人前で、仮にワルツさんしかいないとしても、笑うなんてできない。それなのに、失敗してしまった。
笑っているとこをミルクの配達人に見られてしまった。
ミルクを温めたあと、ワルツさんは居眠りをしてしまって、僕はくすぐったくて、くすぐったくてたまらないだろ。長い間我慢していた笑いがこみ上げてきた時に、緑の扉がギーって開いたんだ。
一本のミルクを片手に持っている。
ミルクの配達人だ。
僕はこのミルクの配達人の顔を見て驚いた。
何年も会ってないのに、僕にはわかった。
僕と僕の片割れが大陸の救貧院にいた頃、彼女は母親とともに救貧院に住んでいた。
この娘はその当時とても幼かったが、個性的な資質を持っていた。
でも、僕の魔法にかかって、僕と僕の片割れのことは覚えていないはずだ。
間違いなくね。
「どうして猫なのにニヤニヤしているの」
ニヤニヤしているなんて絶対言われたくない言葉だ。
彼女は男の子みたいにガリガリに痩せていて、伸ばしっぱなしの黒髪がまるでほうきだ。
季節外れのスエーターはボロボロだし。
少しだけふわっとした黒いスカートは少しそそるね。
顔はどこの国の人だかわからないくらい奇妙なニュアンスを持っている。
少女にも見えるし、戦士にも見える。
でき損ないのアン・シャーリーみたいで、じっと見ているとヒリヒリしてくる。
ミルクはいつも扉の外の横の木の根元に置いてあった。
だから僕は錯覚していた。
ミルクはトリトマラズの木の根っこから生えてくるってさ。
二本の瓶はまっすぐ倒れないように軽く穴を掘って置いてあるんだ。
友達からのプレゼントみたいに、さりげなく、そっと。
毎日、正確な場所に。
熱意がないとあんなふうには置けない。