だが、それをいとも簡単に見つけてしまう。

走り出して数分も経っていないなか、憑依生命体はすぐ下の階で暴れていた。

よく考えたら、先程大きな物音を感じたのにそんなに遠くにいるはずがない。拍子抜けしてしまう程バッタリ遭遇してしまい、瞬間的に漫画のように体が止まる。

「……っ!」

奴の姿は旧時代の西洋風の甲冑を着込んだような姿をしており、背丈は俺より30㎝くらい上。全体的に外装は黒色、うっすらと同系色の霧が彼を覆っている。右手には魔剣という名に相応しい禍々(まがまが)しい剣を所持し、「グオオオオアアアアアア!!!」という呻き声をあげる。

そんな狂戦士を見て、「……おまえか」と、小さく怯えながらも反抗心を見せてみる。

しかし、人間でもない奴に人類の英知でもある言語が理解できる訳もなく、「グオオオオオオオオオオオ!!!」と挨拶代わりに叫ぶ。

当然、初めて見る憑依生命体に圧倒され、不意に背筋が凍る。

「こんな奴とまともに戦ったら五秒も持たねえ」と、恐怖心が俺に囁いてくる。

奴の咆哮(ほうこう)と共にくる衝撃波に、一歩無意識に下がる。

それでも俺の頭の中には、先程の勇気のこもった彼女の表情が残っていた。

「(俺はこいつを相手にしなきゃいけない)」

その使命感が芯となり、心の髄は純情に熱く火照ったかのように熱かった。

その心情に発破をかけられ、それは幸運にもビビりな俺の気性を荒々しくさせる。

【前回の記事を読む】【小説】「瓦礫に埋もれて死ぬだろう…」心を染めていく、やるせない思い