私は五人兄弟で、兄二人と弟と妹がいます。家の中では将棋遊びが好きでした。将棋と言っても、兄二人が「回り将棋」や「山崩し」などで幼い私の相手をしてくれたのです。
私は母に頼まれ、よくおつかいに行きました。お店は少し遠いのですが、その道筋がとても好きでした。
家を出てけもの道のような山道を下ります。小川のせせらぎに板一枚を渡した小橋を渡り田んぼのあぜ道を進むと、タンポポやスミレの花がたくさん咲いている土手の上に出ます。その土手の陽だまりの中を、スキップをしながら行くのです。
暖かい陽ざしの中、野辺の景色を眺めながらのおつかいは、気持ちがウキウキしてとても楽しかったのです。
土手は山沿いにあり、その山の中腹にポツンと一軒家がありました。私の家と同じように周りに家はありません。その辺り一帯山ばかりなので、その家が私の家から一番近い家でした。
ある日おつかいに行く途中の事です。いつものように土手を走って行くと、山の中腹のその家の方から、
「おっかアー!」
「おっかアー!」
と子どもの怒鳴る大きな声が聞こえてきました。
「なんだよおー!」
「こっちだよお!」
と母親の声も聞こえます。
私は初めて聞く「おっかアー」と言う言葉が母親の呼び方だと気づいて、とても驚きました。足が止まったまましばらくの間立ち止まって聞き入っていました。