庭師と四人の女たち

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喫茶店「パンタレイ」の裏庭は、東西南北をアパートやら低層マンションやらに囲まれた中庭となっていて、どの家作も近隣に住む地主、武内康太郎氏の所有物であった。

雑然とはしているものの奇妙な風格があり、かつての庭の持ち主が西洋風の雰囲気を演出しようとした作為的な痕跡がうかがえる。

大きく垂れ下がったバナナの葉翳、屋根よりも高く唐突に突き出した二本の棕櫚の樹、そして西側奥のガラスの破れた古い温室、小便小僧が膝を曲げている方形の噴水池跡などの風情、それらは危うく少女趣味一歩手前であった。

造られた当初は、多分、南洋の小島やローマの遺跡を連想させる幼稚なエキゾティシズムの表現だったろうが、荒れ放題の廃園となってからは、奇妙に荒涼とした陰影を帯びた、得体の知れない美しさを漂わせ始めたのであった。

「武内さんはね、この庭だってあんたの好きな通りに変えたらいいって、言ってくれてるの。お金は自分が持つからって。だから今回、手入れすることに決めたのよ。

ガーデニングの本なんか読むとさ、夏はあんまり植木の剪定しない方がいいと言ってるんだけど、これじゃ草ぼうぼうで、蔦だの蔓だのまるでジャングルみたいに鬱陶しいじゃない。温室だって、壊れかけているし、サボテンやアロエがほったらかしでしょう。ちっちゃい噴水の跡と、あの小便小僧。あれ、どうしようかしら。今日の午後、平田造園の植木屋さんが下見に来るはずだわ」

睦子ママは、店舗用の大型冷蔵庫を開いてミルクを取り出し、歌うように続けた。

「武内のお爺ちゃん? あら会ったことないかしら。……あたし随分、食事の世話をしてあげたのよ。だってお嫁さんの出してる食事、それはもう、ひどいんだもの。あの、奥さんじゃなくて、息子さんの若い嫁ね、ちょっとツンとした。

……贅沢すぎるのよ。ステーキだの、鰻だの、海老フライだの、豚肉テンコ盛りの中華だの。典型的な高タンパク高脂肪のメニュー。こってりしてて、体に悪いメニューばっかり。あれじゃ癌にでも糖尿病にでもなっちゃうわよ。まるで保険金でも掛けて、早死にさせるために、わざとそう仕組んでるんじゃないかと思ったわ。ここだけの話だけどさ。

それであたし、玄米菜食をベースにして、献立を変えてあげたの。厳密なマクロビオティックでもないんだけど、まあ、そんなものよ。お嫁さんには、白い眼で睨まれたけどね」

「ハイハイ。それであの爺さん、免疫力がついてぴんぴんしてきたって言うんだろ」

さっきから濡れた下唇を突き出して、店主の饒舌を聞き流していた客の老婆が言った。

「そういう話は、聞き飽きたよ、もう。あんたの健康談義は」