むっつりと不機嫌そうにカウンターに座り込んでいるこの女は、袋田マス江という六十代後半か七十前後の女だった。全体的に大きな灰色のフクロウのような、ミミズクのような体型をしている。
店内の冷房が効いているせいか、少し猫背をして両腕を丸め、寒そうに顔を歪めていた。
「思い込みが激しいんだから、あんたは。エコロジーだの、自然食品だの、市民運動だの、変な本の読み過ぎだよ。ああいうのに、すぐ染まってさ。まあ、まあ、人生が楽しそうで、羨ましいこった。
それよりか、この間のフリーマーケットはどうしたのさ。樫の木公園で日曜日にやったやつだよ。あたしも行こうは思ったんだけど、何だか暑いし、くたぶれててねえ。いい加減、年だわよ、もう」
この老婆は早くから旦那を亡くし、ビル清掃のアルバイトと、わずかばかりの年金で、何とか暮らしていた。この中庭を囲む西側の古めかしいアパート「橘荘」に住んでいる。
よく壊れかけたような乳母車に荷物を詰め込み、年老いたペンギンのような左右に傾く独特のもたりもたりとした動物的な歩き方で、この近所を徘徊している。
ときどき落ちているコインや財布をくすねては、済ました顔で乳母車に突っ込んでいた。