中学生活開始
三 いじめの本質
七月に入ったばかりの暑い日の朝、エリがカバンから教科書を出していると、木村美恵ちゃんが真っ青な顔をして駆け込んできた。恐ろしくて泣くことさえできないほどショックを受けている様子である。エリの方へ駆け寄って、
「エリちゃん。助けて。とっても怖い。私の靴箱に何か動物の死骸みたいなのが入っているの。怖いし気持ち悪くて見られないの。助けて、エリちゃん。あんなもの、エリちゃんにしかお願いできないの。助けて」
美恵ちゃんは何度も何度も助けてと言う。恐ろしさにブルブル小刻みに震えているようである。
「わかった。落ち着いて、美恵ちゃん。一緒に行って見てあげるから心配しないで。大丈夫よ」
エリは美恵ちゃんを落ち着かせてから、先に立って生徒の入り口に向かった。美恵ちゃんの靴箱は上段にあるので、エリの胸辺りの位置になる。エリが靴箱の蓋を開いて中を覗いてみる。
確かに、何か黒いものがある。小さな動物の死骸のように見える。さすがのエリも素手でつかむのはためらわれる。スカートのポケットからティッシュを取り出すと、エリはその黒い動物らしい死骸をティッシュで覆って上からつまんで取り出した。ティッシュをそっと開いてみると、干からびたネズミか何かに見える。
(ネズミかな。いや、違うな。ネズミならもっとしっぽが長いはずだし。何だろう)
エリははっと気付いた。美恵ちゃんに悪ガキ三人組がつけたあだ名がモグラだったことを。
「これって、多分モグラだよ。ほら、身体の割に大きな手がシャベルみたいになっているでしょ。モグラを捕まえるのは大変だと思うけど、誰がわざわざ捕まえてきたのかしら。これは先生に言って、こんなことが続かないようにお願いした方がいいわね」
エリはそう言うと、モグラを包んだティッシュを握ったまま、
「とにかく美恵ちゃん、靴を他の空いている靴箱にしまってね。その靴箱は先生に頼んで消毒してもらった方がいいから」
エリはそう言うと、美恵ちゃんの前を歩いて教室に入った。美恵ちゃんはそのまま保健室に向かった。