第四章・準備期間

二〇〇七年秋

設立する社会人クラブはプロではない。また企業の運営による社会人チームでもない。しかし、愛知県ラグビーフットボール協会に所属する正式な社会人クラブチームだ。皆真剣だった。皆本気でもう一度、ラグビーをしようと思っていた。俺たち不惑の誓いだった。

九月下旬の休日

俺はいつものように居間のソファーで寝ていた(ここがどの家庭でもおやじの居場所だ)。

掃除機の音が近づいてきた。

「お父さん。明日は大丈夫でしょうね」

妻の弥生だ。

「……そうだった。なつきの合唱コンクール決勝の日だった」

娘たちも年頃になり、休日はそれぞれ遊びに行く。家族でも女同士で出かけるため、休日に父親の俺に声がかかるのは特別なときだけだ。

長女・なつきの高校の合唱部は、名古屋市大会と愛知県大会を勝ち進み、東海北陸ブロックでの決勝戦を明日に控えていた。普通は県大会で勝てば、全国大会に出場出来るのが一般的だが、この合唱コンクールはさらに各々の地域ブロック大会で勝たなければ、決勝ホールの舞台には立てないのだ。

全国で十校しか出場出来ない、厳しい大会だ。しかも愛知県下には、圧倒的な強さで君臨しているライバル高校があった。なつきの高校は名古屋市内では常に一番の強豪校だが、ここ数年愛知県大会では、そのライバル校に勝てていなかった。

しかし、そのライバル校が昨年全国大会で上位に入り、今年は、このブロックから二校出場出来ることになった。なつきは高校三年生にして、最大のラストチャンスを迎えていた。

翌日、家族全員で大会会場の稲沢市民会館に応援に行った。ここに来るのは三度目だ。嬉しかった。二女のみつきと三女のはづきは小学校の部でこの稲沢市民会館で勝ち、全国大会に出場していた。なつきが小学校を卒業した後に合唱部が設立されたため、なつきはまだ全国大会の場所に立てていない。今年がまさに最後のチャンスだった。

東海北陸ブロックは、愛知・岐阜・三重・静岡・石川・福井・富山の七県だ。それぞれの県から代表校が観光バスをチャーターして集まって来た。大ホールでの決勝戦が始まった。