第四章・準備期間
二〇〇七年七月 初夏
愛知県瀬戸市 市民運動場
生徒たちは皆、ヘッドキャップ、ショルダープロテクターにマウスピースをしていた。身体を守っている。今のラグビースタイルだ。俺たちの時代とは違っていた。そして、グラウンド一面に敷かれた深い芝。たまたま今日が芝を敷きなおしてからの「コケラ落とし」だそうだ。フカフカの深い芝。
これならタックルされて転んでもケガをしにくいだろう。素晴らしいグラウンドだ。土のグラウンドでは転んだだけですぐに擦り傷が出来る。
また、今の社会人チームもいろいろとあり、かなり高齢でもラグビーを楽しんでいると聞いた。四十歳オーバーのチーム、「不惑」のチームが各地に存在しているとのことだ。歴史も長いらしい。五十歳代が紺のパンツ。六十歳が赤いパンツを履き、試合の時にはそのパンツの色で判断出来、タックルに行く際に敬意を払うことになっている。
スクラムもプッシュなしで行うことが出来、天候に合わせて、ハーフタイム以外でもウォーターブレイクを設けてくれるそうだ。
真剣勝負の社会人トップチームしか一般的に知られていないが、社会人クラブには、一般人の俺たちが歳をとってもラグビーを楽しめる環境が整っていた。危険なスポーツには変わりないが、その環境があれば俺たちでも出来るな、そう感じた。
スクールを教えていた少し年配の方が声をかけてきた。身体はがっちりしていて、大学OBの方だった。今日の相手は今スクールで教えている指導員たちだそうだ。
「勝てるわけないよね」
とは高田先輩だ。二つ上の先輩でフッカーだった。OB会の立ち上げから何度も練習に参加してくれて頑張ってくれている。
「勝てるのは川浦の体重だけですね」
と貝沼。浦はどこ行った? その巨体と愛嬌ある川浦はスクールを終えた子供たちのヒーロー? ……いや遊び道具となって子供たちとじゃれあっていた。
「大学OBの方たちがすごい体格している。なんとか足を引っ張らないよう頑張ろう」