(五)
痛覚を自在に操ることができる男、痛喪力異能力者、井上真(いのうえまこと)三五歳、会社員
井上が話す。
「僕は、痛みをちょっとの間だけ感じないようにできます。だから、例えば、注射の痛みに耐えることができるという利点があります」
周りのみんなは、
「おっ、おおおーっ!」
と驚きと賞賛の声をあげた。井上は続けて、
「ただ、痛みを感じないでいられるのはちょっとの間だけのものなので、タイミングがずれると痛みは予想していなかっただけに倍増するという難点があります」
周りのみんなは、予想しなかったオチを聞いてまた、
「おおおーっ!」
とうなった。神谷が、
「その、ちょっとの間ってのは、どのくらいなのかな?」
と聞く。神谷も気を失うことのできる時間がわずか一、二秒程度しかないので、人の能力が気になるらしい。井上は、
「その時によって違うと思うんですけど、ほんの一、二秒だと思います。ちゃんと測ったことがないので、正確にはよく分からないんです。それに、感覚としては、その日によって、長さが違うようにも思います」
これも、みんな反応が難しい、といった対応となった。しかし、このクラブの会員らの能力はみんなそんなものなので、誰も文句は言わないのである。
井上も自分の経験を話し出した。井上も、幼少期にその能力に気がついた。転んだ時に、すぐに痛くなるのが普通なのに、その時は痛くなくて、ちょっと後から一気に痛みが襲ってくることがあった。小さい時は、誰でもそういうものかと思っていたので、別に不思議には思っていなかった。それが、小学校に入って、予防接種をするようになった時、注射する瞬間に、
「痛いの、いやだっ!」
と思うと、その時の痛みを感じないのである。