ヨンミの優雅で美しい演奏が軽快なビートに変わったその時、ヨンジュの近くにいた二人の若い女性が、自然と立ち上がって踊り始めた。二人は胸元が大きく開いた洋服を着ていた。ヨンジュは彼女たちの身なりに嫌悪感を覚えた。突然、彼は癇癪を起こして立ち上がると、持っていたパイプで彼女たちの頭を叩いた。
「年長者の前で失礼だ! 年老いた女みたいに尻をゆらゆらさせて。母親から行儀作法を教わらなかったのか? ここから出ていけ!」
彼女たちは面食らい、お互いに顔を見合わせた。女の一人はヨンジュに叩かれた頭を手で覆い、眉をひそめた。そしてもう一方の手を腰に引っかけながら、彼を侮辱するように言った。
「おいジジイ、あんたにそんなこと言われる筋合いねえよ」
ヨンジュは、尊敬の念を欠いた、このとんでもない暴挙に衝撃を受けた。男としての面目を潰されただけでなく、この若い女たちが、最初に思っていたようなただの平凡な女たちではないことを悟った。彼は妻と長男のほうを向いて言った。
「これ以上もう我慢ならない。ここから出るぞ! これは音楽フェスティバルなどではなく、音楽を冒とくしているゴミのようなフェスティバルだ! ところで、ヒョンソクはどこにいる。すぐに探してこい」
彼が大声で話すのに妻と長男は当惑し、恥ずかしくて、彼のことを無視したまま自分たちが座っている場所から動こうとしなかった。
「立て!」
彼は再び二人に怒鳴った。その大きな怒鳴り声により、演奏に集中していた観客たちもこの家族が引き起こした騒動に気づいて彼に目を向けた。ヨンミは演奏しながら、何が起こっているのか気づいていた。ヨンジュがまた怒鳴っている声がヨンミの耳に聞こえた。
市長がステージ前の席から立ち上がり、この妨害に苛立ち、腹を立て、ヨンジュのほうを睨みつけた。市長の隣に座っていた区長が、黙って座るようにと、手を下へ振って合図した。市長の怒りを買うようなことをヨンジュにしてほしくなかったからだ。ヨンジュはやむなく腰を下ろした。
彼は屈辱を感じて地面を見つめた。ヨンミが演奏を終えると観客は拍手を送った。彼女は立ち上がり、お辞儀をした。ステージ上に現れた司会者が次の演奏者を紹介した。
「続いてのプログラムは、大変貴重な演奏です。ヤン・ヒョンソクさんとチュ・ヨンミさんのご登場です!」
ヨンジュは舞台から視線を避けて山脈を眺めていたが、司会者の声が聞こえるや否や、素早くステージに目を向けた。彼は目を大きく開き、驚愕のあまり絶句した。彼の息子がステージを歩いてきた。妻と長男は驚いて見つめ合った。
彼らはヒョンソクが舞台に上がったことにも驚いていたが、それだけではなく西洋音楽を披露するとは思いもしなかったのだ。彼らは、自分の足が緊張で震え、心臓の鼓動が早まるのを覚えた。ヒョンソクは自分のヘグムを持参していた。彼は椅子に座り、演奏の準備をして、ピアノの前にいるヨンミを見た。観客の一部が拍手した。
そのほかの人々は“これはジャズフェスティバルなのに!”とささやき合った。ヨンジュはヒョンソクが舞台に現れたあと、全身の神経が麻痺したように動かず、顔はショックで蒼白だった。彼はヘグムを持って立っている男が自分の息子だなんて信じられないという表情で舞台を見つめた。