第三章 運命の人
十二月も半ばに入り、クリスマスシーズンを迎えていた。街はイルミネーションで彩られムードを高めている。本番の試験へのカウントダウンが始まったが、達也は勉強に手がつかないでいた。
図書館で会ってから、ミヨは体調が思わしくなく、塾帰りの夜も、あれから一度も会ってはいない。達也もミヨに気をつかって、会いたいとは言わなかった。
『ミヨ先輩、こんばんは。その後、体調はどうですか? もうすぐクリスマスですね。今夜もミヨ先輩の回復を祈ってます』
携帯のディスプレイに「送信しました」という文字が表示される。達也は自分の気持ちが果たしてどこまで届いているのかわからなくなっていた。不安な夜が続く。
メールは送信できている。しかし、三日経っても返事が来ないことも多かった。果たしてミヨは、また会ってくれるのだろうか。
部屋の時計の秒針が静まり返った部屋に響く。ミヨは今、やはり寝こんでいたりするのだろうか。体調はいつごろから回復に向かうのだろうか。会えない日が続いているのは、本当に体調がよくないからなのだろうか。マスクをしたミヨが咳きこむ姿が頭をよぎる。
本当は別に好きな人ができてしまったからなのではないか? 僕が出会う前から彼氏がいたらどうしよう。だとしたら、僕がみそぎ学園高校を目指す理由はなんだろう。
達也は、勉強の合間にと母が用意した、チョコレートの箱を開けた。その中からこげ茶色のビターチョコを手に取り、口にふくむと、ほどよい苦味が口に広がる。
携帯に手が伸びる。鳴らない携帯を何度も確認してしまう。ここ一か月くらいでついた癖だ。ため息をついて、またふりだしに戻る。
そもそも今、僕が勉強しているのはなんのためなのか。将来、いい会社に入るため? 別にこれといってやりたい仕事があるわけではない僕にとって、いい会社ってなんだろう。
思い悩むと止まらず、不安は募る一方であった。皆が高校へ進学するからという理由だけで勉強するのだろうか。そんな流された生き方で果たして将来の夢なんて見つかるものなのだろうか。
開いたままのテキスト。一向にページが進まない。
会えない日の夜はとても長く感じられ、今夜も勉強が手につかない。何度目かのため息を漏らしかけた時、あのメロディが鳴った。あわてて携帯を手に取りメールを開く。
『達也くん、こんばんは。返信遅くなってしまったわね。ごめんなさい。熱が上がったり下がったりでなかなかよくならないの。クリスマス、会えるといいね。またね』
達也は自分の頬に平手打ちをした。自分が情けなかった。少しでもミヨを疑ってしまった自分が許せなかった。
「ごめん、ミヨ先輩。僕もがんばります。ミヨ先輩も早くよくなってください」
達也は再びペンを取り、机に向かうのだった。赤いボールペンのインクは三分の二を使い、残すところあとわずかというところまで減っていた。