第一部 カフェ「MICHI」が誕生するまで
清々しく響きあえる場所
一平の家は、ビニールハウスからミニトラックで10分足らずのところにあった。この地区では、ビニールハウスで花を栽培している花農家が五軒ある。そこで働く仲間たちが集まってきた。隣に座ったのは一平。
「酒は飲むもんよ、飲まれたらいかんぜよ」
秀一は、日本酒をあまり口にしたことがなかった。よく飲むワインですらとことん酔うまで飲んだことがない。不安そうに見えたのだろうか。
「大丈夫か秀一、俺が時々飲み過ぎてないか確かめてやるからな」
一平が小さな声で言った。その一言で、秀一の一抹の不安はすぐさま消え去った。
背の高さは秀一と同じ位か、がっしりとした体形で日焼けした顔に白い歯が印象的で、豪放磊落な中にやさしさを秘めた一平。いい奴だなあと好ましく感じている秀一の前に、一平が働くハウスの大将がお猪口を持ってやってきた。老人ではあるが、かくしゃくとしている。
「秀一か、花はなあ、限りない愛情を注げ、慈しみの心を忘れるな。そうすりゃあ、花達の輝きが一層際立つのさ、心から綺麗と思える花になる。人間も同じぜよ」
老人の言葉に秀一は、頷きながらただただ感動するのであった。注いでつがれてまた注いでつがれるうちに、秀一はこれほどまでに清々しい響き合う場があるなんて、と驚きながら心地よく酔いしれるのであった。