第二章
涌井さんが伸びてしまっている。奥さんが「もう遅いのでここに置いていきます」と言って帰っていった。私は台所で片付けをしている。舞ちゃんが手伝ってくれている。私も結構酔っているのだが、頭は朦朧としていても体はまだ動く。涌井さんに毛布をかけてから、私は失礼した。
肌寒い。雄二が送ると行ってくれたが、タクシーはすぐ捕まるので大丈夫だと断った。真夜中のタクシーに乗り、私は無事に家に帰った。無事帰ったと雄二に電話して、私は風呂の支度をしている。
明日は日曜だけど、午後から飛行場に鳩山さんを見送りに行く。そして月曜からは一人でレストランを切り盛りすることになる。2週間のメニューはもう打ち合わせてあり、大半の仕事はそれで軌道に乗るはずである。ただ食材がなかったりした場合は変更になってしまう。その時に私がどうするかは私の裁量にかかってくる。
磯部さんはすでにマリさんと連携して働けるほど頭がいい。大丈夫だろう。2週間なんてあっという間だ。それよりもミノリーヌは凱旋門賞でどう走るのか? そっちのほうが気にかかる。一応馬券は購入した。5千円ほどだから大したことないが、6番人気だからまさかの時の配当は高いぞ。風呂場の窓に明るい月が浮かんでいるのが見える。何か予感はいいのだがどうだろうか。
羽田からこの特別機はパリへ向けて立つ。馬が後部に乗っていて、その前に人間が乗る。今回は4頭がパリへ行く。このチャーター機は今年からのようで、人も馬も一緒に移動する。日本の競馬界は今ではもう世界に引けを取らないどころか、世界一かもしれない。この特別機はオリンピックの馬術馬の輸送にも使われ、国内でも使用されるそうだ。
私とマリさんが代表で空港に見送りに行った。稲穂さん関係の人達が多く、報道陣も来ていた。総勢20名の陣営と家族や報道陣でごった返す一角。鳩山さんは奥様に送られて来ていた。マリさんが銀座の有名店の寿司折を渡している。鳩山さんは留守をよろしくと私達に言い、皆と一緒に搭乗して行った。今マリさんと私は鳩山さんの奥さんを伴い、浜松町の駅で立ち飲みの日本酒を飲んでいる。