第二章
凱旋門賞で日本馬が勝ったことはかつて一度もない。牝馬では日本からはこれが2頭目の参加で、前人気は今6番目だそうだ。
と、このような緊急の事情から、今日は磯部さんがレストランに面接に来る。鳩山さんがいない間の臨時に厨房かウェイターとして働けないかどうかの面談。アル中のことも話してある。緊張するわ。
たくさんのワインがある職場が大丈夫ならどこへ行っても大丈夫だろうけども、まだどうなるかわからないのだ。皿洗いの下働きでもいいと彼は言うので、洋子さんも面談する。夜の10時にやってくることになっている。磯部さんには今日のスペシャルを食べていただくことになっていた。
彼が入ってきたのは最後のお客様がデザートを食べコーヒーを飲んでいる時だった。斗狩君がテーブルに案内して、鳩山さんがメニューを持って行った。私達にも賄いの食事が出る。今日はアスパラとプロシュートのパスタ。羊肉の煮込みは彼用に残してある。サラダはこれもアスパラ入り。
「お飲み物は?」
と聞かれた磯部さんは、炭酸水を頼んだ。彼が一人で食事を楽しんでいるすきに、私は6人分のパスタを作り、洋子さんや、斗狩君達は調理場の片付けに当たっていた。皿洗いの小野田君はゴミを出す係でもある。鳩山さんは何気なく磯部さんと会話している。彼にコーヒーを持って洋子さんが出て行った。座り込んで何か話している。
私はパスタを横目で見ながら明日のメニューの食材を点検していた。斗狩君とウェイトレスの利恵さんが、夜に来る清掃会社のために椅子をテーブルの上に乗せている。もう11時になる。パスタを6皿に分け、皆を呼んだ。斗狩君や私はワインをいただくこともある。今日はワインが半本残り、テーブルに載せた。磯部さんは今厨房を見学している。そして明日採用かどうかの連絡ということで、帰って行った。
皆が揃ってテーブルについた時、鳩山さんが、「磯部さんはなかなかセンスがあるよ」と言った。洋子さんもうなづいている。
「臨時雇いには持って来いの人だ。ありがとう」と鳩山さんにお礼を言われた。
「彼はワインに詳しいし、テーブルマナーもいい」と鳩山さんが、そして洋子さんが、「気さくでお願いもしやすいわ」と言った。
ワインに詳しいなんて知らなかったけど、アル中になったくらいだから、酒類には詳しいのだろうと想像した。