05 圧し掛かる想い

荷馬車は揺れながら、リドリーの住む村へと向かっていた。揺れる荷馬車の上で、アンの心は不安でいっぱいだった。

森から出たアンの心の中は──森から出てしまった、という罪悪感に苛まれていた。このままでは人に見つかってしまう、人に見られたくない、という思いもあった。

それでも。隣で不安気な顔で手綱を握って、歩みの遅い馬にじれったさを感じながら、一刻も早く村へ戻ろうとしているこの男の人が──自分を必要としている。

とにかく……。リドリーさんの村に行って、奥さんを診てみよう……。自分にできるだけのことをするしかない。アンはゆっくりと静かに息を吐いて、そう自分に言い聞かせた。

やがて、風景が辺り一面の麦畑に変わってくる。ぽつぽつと建物が見え、人の姿も見えてくる。村人たちが、見知った木こりのリドリーが、隣に見たこともない黒いコートを着た小柄な者を馬車に乗せてきた事に注目する。

アンは、複数の人からの視線に耐えきれずフードを目深にかぶり、膝を抱えて顔を隠すように押し付けた。

「……アンさん!?」

荷馬車に揺られているのか、身体を震わせているのか……。アンの様子の異変に気付いたリドリーが声をかけると、アンは顔を上げずに「つっ、着きましたか?」と声を裏返させて訊いた。

「……いや。もうすぐだからな!」

リドリーは、アンが何かにプレッシャーを感じていることだけは察したが、何かはわからない。目の前の小さなこの娘の人生を思うと、自分なんかでは想像もできない目にあっていただろうことだけはわかる。触れてはいけないことだとも思った。だから今は、とにかく自分の家へと急いだ。そして、ある場所に着くとリドリーは手綱を引き、馬は歩みを止めた。

「アンさん、着いたよ。さあ、こっちだ」

一足先に荷馬車から降りたリドリーはアンに手を差し出す。

「はっ、……はい」

アンはこちらを窺う村人と目を合わせないようにして、彼の手を取り荷馬車から降りた。リドリーは彼女の手を離すと、代わりに薬が入った木箱を手に持ち、足早に自宅の扉へと向かった。アンもつられるように、村人からの好奇の視線から逃れる意図もあって、急いでリドリーの後を追った。

【前回の記事を読む】急がないと人が死ぬかも知れないのに…森から出られない!