04 森の外へ
「はっ、はぁっ! はぁ、はぁーっ……!」
ただ立っているだけで汗が噴き出し、呼吸が乱れ、動悸が激しくなる。あと一歩。見下ろしたアンの目に──森の木が作った影と、陽の光に照らされた森の外への世界との──境界線が見える。
アンは森の影の中に立ち尽くす。踏み出そうと思う足が、前ではなく、後ろへと向きそうになった、その時──、
「アンさん!」
焦れたリドリーがアンの手を取った。一刻も早く妻の元へこの娘を連れて帰らなければと逸る気持ちから、森に引き返し彼女の手を取っていた。
「アンさん。こっちだ──っ!?」
リドリーはアンの手を引っ張った──目の前の彼女が、このままでは森の木々の影へと呑み込まれるように見えたからだ──その時、彼は目の前の小柄な女性とは思えないほどの重みを手に感じた。
なんだ? 彼は訳がわからず得体のしれない恐怖に襲われ、反射的に手を離しそうになった。が、だめだ! と自分を叱咤する。
妻のためにこの娘が必要だという事もあったが、それよりも、どうしてか彼は、この森から彼女を連れ出さねば! という想いに駆られた。胸の内から湧き上がってくる感情に急き立てられ、想いのままに手に力を込める。だが、それでも。
だめ……、私は森でじっとしていなきゃいけない──アンの身体は強張り、言葉を発することも息もできず、足に根がはり森の中の一本の木になったかのように硬直する。その時だった──。
誰かが。そっと……、アンの背中を押した。