2+1は……
~危険な誘惑~
まひるが医局に居ると内線で助教授の佐伯から電話が入った。直ぐに部屋へ来て欲しいという内容だった。
まひるが佐伯の部屋を訪れると、佐伯から今後の事について話があるので、食事をしながらでも、と誘われたが、まひるは夜凛が居るからといっても遅く帰る事に気が引けた。まひるは「大切な話なら今なら時間もあるので此処で話を聞きたい」と申し出たが、佐伯は「時間が無いので夜食事でもしながら」とやや強引に誘われ、断りきれなかった。
夜、指定されたホテルにまひるは居た。食事は、仕事の話などから、家庭の話などで和やかに過ぎていった。その後最上階のラウンジに誘われたが、まひるは凛やヒカリの事が、気が気ではなかった。しかし強引な誘いを断れず、エレベーターに乗り最上階のラウンジに着いた。ほろ酔いのまひると佐伯はワインを飲みながら話していたが、佐伯が「君が望めば講師の仕事も任せたい」と言い始めた。
10年働いて講師になれるのは、ほんの一握りだ。まひるにも叶わないと思っていた夢の階段だった。まひるは素直に喜び、感謝の気持ちを持ったが、その時佐伯はポケットから部屋の鍵をまひるに見える所に置いた。
まひるは直ぐに分かった。佐伯が講師の話と条件に何を望んでいるのか。
パワハラだ!
しかし、講師になると収入も増えるし早く帰ることも可能にはなるが、曲がった事の嫌いなまひるには堪え難い侮辱だった!
しかし、ここで断ると佐伯の自尊心を傷付ける事になる。まひるは話の途中で黙ってしまった。
どうしよう。何て断ったら良いのだろうか。
まひるは心の中で凛に助けを呼んだ。
佐伯は如何にも、まひるとヒカリの事を心配しているかの様な話の持って行きかたを続けている。
確かに講師になると収入も増えるし早く帰れる日が増えるが、この様な話は二の次と言うことは分かっていた。一度我慢をすれば済むことかもしれないが、そういう問題ではない。又佐伯についての噂で良い噂を聞いた事は無い。まひるが困っていた時だった。
後ろから「おまたせ」と言う声が聞こえてきた。
振り向くと凛とヒカリが立っていた。
まひるは驚きを隠せなかった。
凛が佐伯に丁寧に挨拶をして講師の話に対しても御礼の言葉を述べていた。そして凛は、まひるの方を見て頷き、まひるを連れてホテルを出た。
まひるは、凛には何も話して無かったのに、凛が分かった事に驚いた。
凛は穏やかに話し始めた。
「まひる、僕に助けを呼んだでしょう~。それで、ヒカリちゃんと来たんだよ。せっかく3人で来たのだからケーキでも食べて帰ろう~」
と言ってくれた。ヒカリは大喜びだった。
凛は真顔で
「もっと、僕を頼ってくれないかな~。幽霊だから頼りない⁉」
まひるは、凛に
「ゴメンなさい」
と謝った。
今回の事は、自分が隙を与えた結果だったと反省した。
凛は気がついたのか
「まひるのせいじゃないよ、それだけまひるは魅力的なんだよ」
と、優しく微笑んでくれた。
家に着いて中庭でまひるが1人でいると凛が来て、
「いつも、まひると、ヒカリの側には僕が1番近くに居るから安心して」
と優しく微笑んだ。
そんな凛を、まひるは頼もしく大切な人だと実感した。
「私、幽霊に恋してる」
と凛に素直に伝えて、そっと寄り添った。