第二章 その答え

~引っ越しの朝~

まひるとヒカリが引っ越してくる日の朝から、凛は落ち着かなかった。前に住んでいた家に引っ越してくるのだ。

まひるは、事故の事は覚えていないのだろう、ということは凛にも分かっていた。凛は、まひるが思い出す事が不安でもあり、直ぐ手を伸ばせばまひるが居る事の喜びと、複雑な気持ちだった。

いつも、どんな時も凛はまひるを守ってきた。しかし、幽霊である自分をどうしたら良いのか思い悩んだ。

医学生の時にヒカリを身ごもった事を知った凛はまひるに何もしてやれなかった。そして、まひるがヒカリを産む決心をした時にも凛はまひるを守れなかった。

その後のまひるの苦労を、凛は知っていた。相手の男にまひるの事を知らせる事も出来たが、まひるは、自分から去っていった人を引き止める事はしなかった。まひるの決心を、凛は見守るだけだった。

引っ越しの翌日、ソファーの置いてある所にドアを付けた。まひるの事は知り尽くしている。恐らく、凄い勢いで怒ってくるだろうと、楽しみに待っていた。そこから、まひるとヒカリに溶け込んでいけたら良いと思って待っていたら、案のじょう、まひるが二階に上がってきた。凛は心なしか嬉しかった。

凛が見てきたまひるは、しっかり者だけど、何処か天然を持っている。職業が医者という事もあり、超常現象には疎い。しかし昔からの聡明さが、まひるの良いところだった。そして1人でヒカリを育てる事に頑張っているまひるを助けたいと常に思っていた。

ヒカリはまひるにとても似ている。凛は2人を見守り続けてきた。ヒカリが愛らしくたまらなかった。

凛は、2人をからかう事から始めようと、心待ちにしていたのだった。

~ヒカリの孤独~

転校してきて、数日間はヒカリの周りにクラスメートがたかっていた。しかし、日を追うごとに少しずつクラスメートが離れていった。それは、まひるがシングルマザーという事が何処かで噂になっていたからだった。明るいヒカリだが、時々顔色が曇る。凛には痛いほど、ヒカリの気持ちが分かっていた。

放課後、直ぐに帰ってくるのもそのせいだと知っていた凛は、何とかヒカリの気持ちを和らげてあげようとあれこれ考えた。ヒカリとゲームをしたり、ピアノの弾き語りを聞かせたりしている間に、凛は過去の自分の話をして勇気づけた。

凛の歌は韓国語だったので、ヒカリは興味を持ち始めた。ヒカリは、凛に韓国語を教えて欲しいとせがんだ。訳を聞くとヒカリは、まひるに聞かれたくない話を韓国語で凛と話したかったのだった。

ある日学校から帰ってきたヒカリは、何かをゴミ箱の下の方に隠すような捨て方をしていた。

凛は気になり拾って見ると、それは父親参観日のお知らせだった。まひるに似て、強気で明るいヒカリにも、まひるにも凛にも言えない事があったのだ。凛はヒカリの為にも参観日に行ってあげようと、決めた。

教室に沢山の父親が来ても、ヒカリは当然振り向きもしなかった。ヒカリには父親が居ないからだった。

凛が教室に入った時、クラスメートがざわついた。その時初めてヒカリが後ろを振り返った。凛が手を振ると、ヒカリの頬が薄っすらと染まり、何とも言えない嬉しそうな顔をした。凛は未だに忘れられなかった。例えこの先、まひるとヒカリに何があっても守りたい、と心に決めた凛だった。