2+1は……

~動き出した針~

まひるが従業員通用口から出てきた時、真一が現れた。

「娘さん10歳だって聞いたけど、もしかして僕の子供だったのか?」

真一の言葉に、すぐに返答出来ないでいた。ヒカリにとっては実の父親だ。しかし10年も経っているのだ。今更、父親気取りをされても、迷惑なだけだった。

「貴方には関係のない話だから、気にしないで」

と、まひるははっきりと真一に言って帰っていった。

家に着いたまひるは、玄関前で大きな深呼吸をして

「ただいまぁ~」

と、家に入った。

夕食を済ませ、ヒカリや凛と遊び、10時頃シャワーを浴びて、庭先でビールを飲んでいた。

やはり、今日の出来事が気にかかり、まひるの顔は暗かった。

凛はまひるの様子に気がついていたが、わざとふざけてまひるに話しかけた。まひるは、そんな凛の話にケラケラ笑いながらビールを飲み干した。明日も仕事頑張らないとね、とまひるが凛にお休みの挨拶をして部屋の中に入っていった。

その後ろ姿を凛は心配そうに見ていた。

凛にとって、まひるは唯一の親友だった。父親が韓国人、母親が日本人のハーフ、という事で転入してしばらくすると、凛はイジメられ、仲間はずれにされる様になっていた。

そんな時、まひるが隣に居て、いつも凛を助けてくれていた。雨の日の帰り、凛はいつも傘を持っていなかった。そんな時でもまひるは凛と二人で傘をさして帰っていた。

ある日の朝、まひると凛が、学校へ行くと凛の上靴が無かった。まひると凛が探していると、ゴミ箱に凛の上靴を見つけた。まひるが怒っていると凛が「気にしていないから」と言う凛の気持ちが痛い程分かったので、凛の言う通りにまひるは怒りを我慢した。

その数日後の事だった。凛が筆箱を開けようとした時小さな声で凛が「痛い」と言った。まひるは直ぐに凛の筆箱を見た。蓋の裏からがびょうが刺さっていた。まひるは怒りよりも悲しみの涙が出てきた。それでも凛はまひるに「大丈夫だから」と、まひるの気持ちを受け止めてくれていた。

凛は、子供の頃の事を思い出していた。