数日後、真一が病院へ仕事で来ていた事をまひるも知っていたが、別段仕事上での話は無いので、まひるは淡々と外来の仕事をこなしていた。
お昼に、凛がまひるを訪ねてきた。お昼にお弁当を持ってきたのだ。同僚の医師や看護師は、興味津々に見ていた。まひるは、慌てて「親戚でお弁当持ってきてくれただけだから」と、言い訳がましく言っている自分が恥ずかしいと思った。
まひると反対に、凛は愛想を振りまき、中々部屋から出ていってくれなかった。
凛が通用口からまひるに追い出される様に出てきた時、真一と出くわした。凛は愛想良く真一に挨拶をし、話しかけようとしたが、まひるがさえぎった。真一も何か言いたそうにしていたが、まひるは、凛に「有難うね」と言って院内に戻って行ってしまった。
残された凛と真一は、なんとも言えない雰囲気で軽く会釈して話をした。
まひるが家に着くと、楽しそうに笑うヒカリの声と、賑やかな笑い声が聞こえてきた。部屋に入るとまひるは驚いた。食卓を囲んで真一が居る! 思わずまひるは、凛を睨みつけた。文句も言いたかったがヒカリが居るのでそこは我慢をした。
食事が終わり、真一を送りに一緒に玄関からでたまひるは、真一に「もう来ないでほしい」と話し始めた。ヒカリには父親の事は詳しく話していない事も言った。
だが、真一は納得してはくれなかった。今の妻との間には子供が居ないのだ。いざ、自分の子供が居ると思うと嬉しさで一杯だった。
まひるは、ヒカリには何も言わないで欲しいとお願いをした。それが、ヒカリの為だと説得したのだ。
すると、真一に凛との関係を聞かれた。まひるは返事に詰まったが、今の自分達には必要な人だと打ち明けた。真一は、まひるの真剣な顔を見て何かを悟ってくれた様だった。
家に戻ったまひるは、凛に噛み付く様に文句を言った。しかし、凛は穏やかな顔で、「いつまでヒカリに隠しておくつもりなのか」と聞いた。今はまだ良いが、いつかは知る日が来ることをまひるに話した。
ヒカリが父親を必要としているのは、まひるも知っていた。恋しがって凛に懐いているのも分かっていた。まひる自身もどうしたら良いのか分からないで今まで過ごしてきていたのだ。そんな、まひるを見て、凛は、
「自分は本当の父親ではないが父親代わりになる」
とまひるに話し始めた。
「ヒカリはしっかりしていても、まだまだ父親が恋しい年頃なのが先日の参観日で分かった。ましてや父親参観日などや運動会など、寂しい思いをさせたくない。ヒカリだけではなく、まひるの支えにもなりたい」
と真顔で凛に言われた。
そんな凛の思いがまひるには、嬉しかった。
まひるは、自分の中で凛の存在が大きくなっているのに気がついた。
そんなまひるの顔が一瞬暗くなる事に凛は気がついた。それは、自分が幽霊であるからに違いないと思った。
凛はまひるに、一緒に歳を重ねていこうと話した。例え、まひるが歳をとって、死を迎えるその時まで、一緒にヒカリを見守り、その後も2人でヒカリを見守り続けたいと話した。
まひるの心の中は、凛で満たされていった。