丁度1年の入院、彼女は何度逢いに来てくれただろうか。片手に満たない。そして、初めての面会から見知らぬ男性と一緒だった。Nさん、顔も憶えている馬鹿な私、そそくさと会ってそそくさと帰っていく。そんな日はなぜか決まっておねしょするらしかった。

あくる日、当然同じ部屋の子供達にからかわれ、いじめられる。

中野先生、療養所内の小学校の担任、だからなのか知らぬまにいつも傍に居て下さる。

“お前はなんでおねしょするんかいなー”と頭をなでながらニコニコ笑う……先生、ありがとう。

先生は酒の粕が好物で時間があると、七輪の上にアミを置き両手をこすり合わせながら焼き上がりを待つ。香ばしく焼けるとキツネ色の砂糖を乗せフーフーしながら包み込んで次から次と食べる、“美夜子も食べるかー、うまいぞー”と小学3年の私に嬉しそうにすすめるのだ。

病にも段階があって一時期、重症病棟に入れられる。

一番奥に有るその病棟のむこうは焼き場になっていた。

そこでは看護婦は足音も立てず歩き、隣の病室の患者の息さえ聞こえる程の静かさで、木々の多い周辺に飛んで来る鳥のさえずりだけがこの世にいると思わせてくれた。

3日に1度は誰かしら亡くなったのささやきを聞き、その中には私の大好きなお姉さんも入っていた。

でもなぜか私には皆、等しく、不幸で、あの世に旅立つ順を待っている心静かな場所だった。

なのに70才の私がここにいる、ここが天国ならなんて罰あたり。

許して下さい。寿命に感謝。