第一章 知事就任

翌朝。県の主要な施策を統括する筆頭部長、牛山均総務部長が知事室に入ってきた。

でっぷりと太った体のうえに、表情の乏しいのっぺりとした顔をのせている。いつも腹の中で何を考えているのか分からない、そんな気持ちの悪さがある。

光三は着任の当初から、この人物とは波長が合いそうにないと直感していた。

筆頭部長の立場で抜かりなく庁内全体に睨みをきかせているが、本人独自の提案などはほとんど聞かれない。そのくせ、否定から入ることが多い。時には光三に追従笑いを見せても、目は決して笑わないでいる。知事の第一の補佐役のはずだが、光三としては気が許せないし、冗談などを言い交わす気にもなれない。

朝早くから、何の用なのか。背広の上着からはみだした腹をゆすりながら知事用の大きな執務机に近づいた総務部長は、さっと頭を下げると、立ったまま切り出した。

「秘書課長から伺いましたが、大島郡へのご視察出張を急いで検討するように命じられたとか」

無言でうなずく光三に、総務部長は不愛想な顔で、まるで吐息でもつくような気配を見せる。

「この時期に本土をお留守にされるのは、いささか具合が悪くはありませんか」

光三は総務部長が何を言いたいのか分からずに、なぜ不都合なのかを問い返す。相手が目の前に立ったままでいるため、見下ろされているように感じて不快になってきた。執務机の前に置いてある説明者用の椅子を手で指して、腰かけるように指示する。同じ目線の高さになった総務部長が、表情を変えずに答えた。

「鹿児島市長と商工会議所の会頭が、早急な打ち合わせを求めています。秘書からお伝えしてあるはずですが」

村上久鹿児島市長たちからの面談要望は、たしかに承知している。秘書に日程の調整を命じてあるが、奄美行きとどう関係するのか。