今日子が注文を聞いて去ったあと、幸太は顔を突き合わせるようふたりに目配せした。
「手伝うてくれんか?」
幸太は銀行に行った時の出来事、出会った彼女のことがひと目で好きになったこと、そしてどうしても再会したいという思いを小声で話した。
「わかった。わしらは何をすりゃええんか?」
剛史が尋ねた。祐介もうなずく。
「俺といっしょに銀行に行ってほしいんじゃ」
「で、どうする?」
再び剛史が聞いた。
「三人で番号札を取る。順番は俺が最初で、あとはお前らどっちでもええ。取ったら三人とも知らん顔しとけ。仲間じゃと思われるな」
「わかった。前やった手を使うんじゃの?」
剛史が大きな声を出した。慌てて口を押えたがカンターの中で今日子が見ていた。
「じゃが、何で三人なんじゃ? ふたりでもええんじゃないか?」
剛史の問いに幸太が説明した。
「確実じゃないけえよ。窓口の用件は長うなって順番どおりにいかんかもしれん。俺はどうしても彼女の窓口に行きたい。そのためじゃ」
「わかった。じゃが、もし番号札を取り換えて、わしらが先に窓口に行ったとして何しに行くんじゃ?」
剛史が不安げに聞いた。祐介も同じだ。
「そうじゃな。新しい口座を作ってくれんか? 千円くらい入金して。その金は俺が出す」
「ええけど一万円くらい入れときたいのう」
幸太にそう言ったあと、剛史は「冗談じゃ」と笑った。幸太は作戦を続けた。
「もし俺が運よく彼女の窓口に行けたら、お前らは番号札をキャンセルしてくれ。『急用ができてすぐ帰らにゃならん』とでも何でもええけえ」
その時今日子が注文を受けたコーヒーを持ってきた。慌てて幸太たちは、前かがみで顔を突き合わせている姿勢を正した。今日子はコーヒーをテーブルに置いたあと、悪戯っぽい目をして言った。
「あんたら、またキャバクラへ行く話をしとるじゃろ?」
「違うよ。おばさんとは関係ない」
そう言われた今日子が剛史をにらんだ。剛史はまた殴られると思い、頭を両手で覆って叫んだ。
「幸太の恋の話じゃ」
「バカ、剛史言うな」
幸太が制したが遅かった。
「へえー、そうなんじゃ。幸太君の恋ねえ。どこの娘よ?」
今日子は空いている椅子に座った。興味津々という感じの目になっている。幸太たちは戦々恐々としてかしこまった。
「ねえ剛史く~ん、おねえさんに教えてよ」
猫なで声になった。だが剛史は大きな身体を丸めて首を横に振った。
「よせ、今日子。幸太らが困っとるじゃないか」
カウンターの中から龍一の声がした。
「あ、はあ~い」
今日子はがっかりという顔で席を立った。