野球馬鹿
やがて剛史と祐介がいっしょに入ってきた。どうやら表で会ったらしい。
「よう幸太、相談って何じゃ?」
剛史が椅子に座るなり、切り出した。祐介はにこにこ微笑みながら軽く手を上げた。
ふたりとも幸太の同級生で、中学の野球部にいた幼なじみである。
岡村剛史は家業の酒屋を手伝っている。背はそれほど高くないががっしりした体格で、濃い不精髭が怖い印象を与える。けれど笑うと下がっている眉毛が一段と下がり、愛嬌のある顔になる。中学時代捕手で幸太のボールを受けていた。底抜けに明るくて物怖じしない。こうと決めたら迷わないし、失敗しても引きずることはない。幸太には頼りになる友である。
風間祐介は父親が早くに亡くなったため、高校を卒業すると母親の代わりに魚屋を継いだ。優しい性格で誰にでも好かれるタイプだ。体型は背が高くスマートである。
中学から高校まで野球をしていて、彼の女性ファンが多くいたほどのイケメンである。そういうわけで、剛史に「お前は魚屋に向いていない」と言われて笑っているが、実際幸太には「サラリーマンになりたかった」と打ち明けたことがあった。育ててくれた母親のためにと家業を継いだのだ。
「いらっしゃい。何にする?」
「おばさん、こんにちは」
剛史が言ったとたん、バシッとげんこつが剛史の頭を直撃した。
「おばさんじゃない言うとるじゃろ。おねえさんと言え」
確かに年齢は十歳しか違わないので、おばさんはいかがなものか。グラウンドでは屈強な剛史も形無しである。だが剛史は「いてーなあ」と言いながらも嫌がっている様子はない。剛史には姉妹がいない。きっと今日子に姉みたいな憧れを抱いているのだろう。