翌朝、起床して携帯を確認した私は驚いた。深夜にショウタから着信が来ていた。リサとのお喋りで盛り上がっていたためか既に寝ていたか覚えていないが、とにかく気付かなかった。

メッセージでのやりとり以上のハードルを感じる手段だからか、電話が来ていたことには胸が高まったが、時間帯を考えると手放しに喜べないような気もする。何もないのに気軽に電話する時間帯とは思えないし、緊急性が高ければ何度か電話する可能性や用件をメッセージに残すこともできると思うが、その跡はなかった。恋愛経験豊富なリサも、「うーん、まだ様子見かしらね……」と唸るだけだった。確認のメッセージは送ったがあまり気にし過ぎないでおこうと思う。せっかくの旅行だし。気にはなるけど。

気を取り直し、軽く朝食をすませた私たちは車に乗り込んで松江を出発した。米子も越えて海沿いをさらに東へ走る。よっぽどの長距離や時間がないとき以外は、私は下道をゆったりと走るのが好きだ。行きたいところさえ回れれば行き方はどうでもいいという車に興味のないリサの言い分をいいことに、私は通りたい道を勝手に通る。運転手の特権だ。

時折横からリサがおやつを恵んでくれるし、音楽も流れていて快適に走っていたのだが、突然車体が揺れて嫌な予感がした。慌てて路肩に寄せタイヤを確認すると、左後輪がパンクしていた。車道に落ちていた釘か何かを踏んでしまったらしい。最近主流の修理キットで応急処置ができそうな程度の損傷なのは幸いだが、この車が古い年式のようでスペアタイヤしか入っていなかった。タイヤ交換はさすがにやったことがない……どうしようか。

ネットで調べながらどうにかするしかないか、と腹をくくっていると車を停めた後方の建物から一人の男性が出てきた。六〇歳代といったところか。

「どうした?大丈夫か?」

つなぎを着て肌は浅黒く少々荒っぽい言い方だが、心配して出てきてくれたところを見ると悪い人でもなさそうだ。私が状況を説明すると、男性がニヤッと笑う。やんちゃそうな顔に、年齢を感じさせない表情。なぜかデジャヴを感じたが、

「よっしゃ、おっちゃんが手伝ったろ。お二人、美人さんやし」

と予想外の申し出が飛び出し、それ以上の思考は停止した。私たちが驚いている間に、中から一人仲間を呼んできたかと思うと、あれよ、あれよという間にタイヤが交換された。感激してお礼を言う私たちに、何でもないように手をひらひらさせる。爪が黒くなっているところをみると、元々何かの作業をしていたのだろうか。