五人は死んだ稚魚を、養魚槽の隣の生理分析室に運んだ。手際よく水気を拭きとると、体重と尾叉長を測定して、肥満度を計算した。
「肥満度に問題はなさそうだな」
「みんなはどうだ?」と橋本。
「肥満度は大丈夫そうです」と川原。
「エサは十分だったってことだよな」と出丸。
(エサに問題はないとなると、俺たちに問題があったわけではない。やはり酪農によって川が汚されたことが原因か……)
大河は、顔を真っ赤にしながら、頭の中ではぐるぐるとこのようなことを考えていた。
双眼実体顕微鏡で、井畑は死んだ稚魚の体表を詳しく観察しながらつぶやく。
「病気はないですね」
伝染病の兆候も見られなかった。
「橋本先生、このエラを見てもらえますか?」
井畑がエラに何かあることを見つけたらしい。橋本、大河、川原、出丸が、井畑の周りに集まった。井畑は、エラブタを広げて、エラを見せた。
「白い……」
橋本は、ふ化場で、このようなエラは見たことがなかった。エラは通常、血が透けてピンク色をしている。しかし、橋本はあることを思い出していた。
サンプリングしたすべての稚魚を確認してみたが、例外なく白くなっていた。
「川原、写真を撮っておいてもらえるか。後でメールに写真を添付しておいてくれ」
橋本にそう言われた川原は、双眼実体顕微鏡のレンズからスマホで白くなってしまったエラを撮影した。
今までこんなことはなかった。ニシベツ川には、何かが起こっている。五人は起こってしまっている現実に、漠然とした不安を抱いた。
(酪農のふん尿による、河川汚染がもうこんなことを……)
大河は、際限がないかに見える酪農開発に、怒りを感じないわけにはいかなかった。