三人は河原町通りや四条通りの喧騒から離れ、鴨川の河原に降りて歩き始めた。三条大橋の下を過ぎたあたりで、妙なものが三人の視界に飛び込んできた。一人の男が転んでは立ち上がることを繰り返している。立ち上がって歩き出そうとするのだが、ふらふらして足がもつれ、また倒れてしまうのである。

「酔っ払いやな。千鳥足どころやないわ」

城戸が最初に呟いた。

「放っとくわけにはいかんみたいやなあ」

相国寺が苦笑しながら後を引き取る。きっと酔っ払いだと純平も思ったが、純平自身はあんな酔い方―歩こうとしても足腰がいうことを聞かないというような―は経験がないので、なにかテレビドラマでの俳優の演技でも見ているような気がする。

「ほら、おっちゃん、しゃんとしない」

長身の相国寺が肩を貸す形で、その男をしっかり立たせる。暗い河原でも、その男の格好が決してちゃんとしたものでないことは純平にもわかる。上着はサイズが合っていないし、ズボンは裾がほつれ、膝が抜けている。浮浪者とまでは言わないが、いずれそれに近い存在だろう。年齢はよくわからないが、自分の父親よりはかなり上に見える。ゆうに六十は越しているだろう。

近くに寄ると無精髭には白いものが目立ち、何にしてもあまり積極的に近づきたくはない男である。こちらは三人だとの安心感があって初めて声を掛けることができたと言っていいかも知れない。

「純平、飲むもん残ってないか」

試合の日、純平がいつもスポーツドリンクを二本持参することを相国寺は知っている。純平はスポーツバッグを開け、まだ半分ほど中味の残っているペットボトルを差し出した。相国寺が受け取る。

「おっちゃん、これ飲みや」

ペットボトル半分のスポーツドリンクで酔いが醒めるとは到底思えないが、とりあえず男は自分の足で立つことができる程度には落ち着いたようだ。

【前回の記事を読む】【小説】「…婆さんやったかも知れんのう」危篤の母の病室で起きた不思議な現象