第二章
月並みだけど、本当に、いい人。
直感的には、彼と付き合えば幸せになれるだろうと思った。でも、私の中には、高校時代から持っていたトラウマがあった。それによって彼に迷惑をかけるのではないか、幻滅させてしまうのではないかという懸念があった。
すぐに結論を出すことができず、仕事の忙しさも相俟って、返事を保留したままになってしまっていた。
一か月ほど経って彼から連絡をもらい、うちの近くの小さな公園で待ち合わせた。
梅雨入りしていたが、珍しく雨が降らなかった日。翌日は雨の予報で、夜空には雲が四方から押し寄せていたが、なんとか持った。仕事帰りにコンビニでビールを買って、直接向かう。ベンチに健太君の姿を見つけ、小走りで近づき、遅れたことを詫びた。彼は缶ビールを片手に、笑顔で私を迎えてくれた。
「俺も、今来たところです。あ、ビール、お揃いっすね。とりあえず、乾杯しましょうか」
彼の横に座り、二人で缶を合わせる。私が一口飲んだのを見届けて、彼がゆっくり話し始めた。
「……このあいだは、突然ごめんなさい。でも、酔った勢いじゃなく、ずっとあなたのことは好きでした。俺、本当に、本気です。もっちゃんもいるし、関係性が崩れたらいけないと思って言わずにいたんですけど。俺、先生と一緒にいたいんです。できれば、ずっと。
真希先生って、あっけらかんとしてるんだけど、実はすごく真面目ですよね。仕事柄、男と対等にならなきゃいけないから、逞しい自分も保っているけど、本当は繊細で女性らしい部分もあって。俺、こんなに女性に惹かれたことないんすよ、マジで。もう一回言います。俺と、付き合ってください!」
彼は真っ直ぐに私を見て、手を差し出している。少なからず好意を抱いていた相手に、自分をちゃんと見てもらえていた。それは本当に、嬉しかった。彼の熱意に、少しこみ上げるものもあった。でも……。
私が押し黙っていると、彼が不安げな表情に変わり、差し出した手を引っ込め、所在なげに手を広げたり握ったりしていた。しばらくそのまま何も言えなかったのだけれど、彼の真っ直ぐな気持ちに応えなくては、と思い、決心した。彼の手をとって、話を再開した。
「私のことをちゃんと見て、理解して、好いてくれたんだ。ありがとね。健太君は本当にいいヤツだと思うし、私も好き。お世辞言ったりしないしさ、信頼してるんだ。一緒にいたら幸せだろうとも、思う」
「そう言ってもらえて、嬉しいっす」
彼は少し頬を緩ませ、微笑んだ。私は逆に、申し訳ない気持ちになる。
「でもね、一つだけ。ちゃんと話しておくべきことがあるんだ」