だが、それにしても三年の年月は単品の商品の開発期間としては長過ぎる。毎月一回定例的に開かれる開発会議を俊夫は最初から取り仕切っている。最初高揚感に駆られて威勢のよい発言の多かったこの月一回の会議は二十回を越える頃から徒労感に蝕まれるようになり、会議を取り仕切る俊夫の口からも愚痴話が混じるようになっていた。

「だいたいこのプロジェクトは技術的に最初から安全を安全をと考えて組み立てられたものだ。最初から莫大な開発費をかけねばならないノルウェーのシマール社の主製品である全方向のオムニソナー(超音波発射角度が一気に三百八十度)を手がけるのは危険だから、まずレジャーや小型漁船向けのサーチライトソナー(超音波発射角度六度で順次回転)とセクターソナー(超音波発射角度四十五度、六十度、百八十度等で順次回転)から入ることにした。

北海道に我々の先輩富良野社が成功しているから開発に安心感もあった。だから、もっと予定通りにスムースに行ってもいいのではないかね」

社長の愚痴混じりの言葉に技術の連中は飽き飽きしたように黙りこくっている。“予定通りに”という言葉はもうその頃には死語と化している。サーチライトソナーを一年か、どんなに時間がかかっても一年半位で市場に乗せ、セクターソナーを更に二年以内で完成させ、それから本格的にオムニソナーに着手する予定だった筈だ。

予定通り行っていればもう今はサーチライトソナーもセクターソナーもがどんどん売れ出し、オムニソナーも完成する頃合いだ。なのに、まだ何一つ影も形もない。三年経って開発が完了しないようではこの技術の進歩のサイクルが短くなった時代ではもうそれは開発ではない。金をどぶに捨てているようなものだ。

「技術の進歩といいますが、この種の開発は新しい技術云々よりもノウハウの塊と考えた方がいいです」

技術部長の平田が遠慮がちに反論する。

「ご存じの通り、イギリスのダットングループとかマルコニーが第二次大戦中に開発した技術を我々は追いかけているだけなのです。彼らには半世紀以上に亘って積み重ねて来たノウハウがある。そのノウハウの部分で我が社の若手技術者は苦労しているんです」

勿論そのことは俊夫としても認めないではない。技術者たちが夜も寝ないで努力している間に一つ、また一つと、難関をクリアーして来ていることだけは間違いなく、それが救いだった。ノウハウ上の難関は特に船底装備部分の設計開発にあった。必要な強度とスムースな回転を確保する為の設計上の試行錯誤が延々と繰り返された。

やっとまともな強度が得られ、まともに動き、まともなデータが得られるようになるまでに二年かかったが、それが本当に大丈夫かどうかは最終的にソフトが完成し、何回もフィールドテストを繰り返した結果を見るまでは何ともいえない。

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