オンライン追悼会
- インタビュー1 村上秀一郎、品川警察署警部補 その一(リアル)
警察の取調べ室で松野は村上警部補と三密(密閉、密集、密接)を避けて双方マスクをし、デスクを挟んで斜めに向き合った。村上はオンライン追悼会に声掛けしてもらったことの礼を言い、お陰で今まで彼が抱えていた幾つかの疑問点がより明確に浮かび上がってきたと言った。松野は問題のマンションに足を運んだことを刑事に話した。
「あなたの意見に僕も賛成です。斉田さんが椅子も踏み台もなしにあの上から不注意で転落した可能性は非常に低いと思います。ひとつ質問ですがあのマンションの住人はどういった人たちですか?」
警部補の調査によるとあのマンションは各階に八戸あり、二十二階に住んでいる住民の概要は次の通りだった。
パチンコ業界実力者、会社役員、外国企業駐在員、不動産業、高齢の女性、会社社長、ベンチャー企業経営者、医院経営者、計八戸。
マンションは広さによって価格に差はあるものの標準価格帯は一億八千万円から二億五千万円の間である。亡くなった斉田が借りていたのは廊下の中央にあるエレベーターから見て南東の一戸だった。広さは百一平米。非常階段は西の端にある。マンションのオーナーのうち相続人の女性を除いてほとんどが財テクと税金対策の為のマンションの購入である。
村上は金はある所にはあるものだと言った。彼等は自分のマンションで事件が起きたせいで不動産価値に悪い影響を与えないかと不安を覚えている。村上は部下と手分けして事件当日の午後八時半から十一時半の間にマンションの玄関と二十二階のエレベーター脇に取り付けてある防犯カメラの映像に写っている人物一人一人をマンションの管理人の証言を参考にして住民と突き合わせている最中だ。他の階の住民とその関係者も入れると馬鹿にならない数である。
村上は付け加えて言った。
「実は二十二階のエレベーターの脇に取り付けてある防犯カメラの映像の中に身元不明の人物がいましてね。そのうちの何人かはオンライン追悼会で確認出来た。ところがあの夜のことで何か隠している人物があの中にいる」
「あの追悼会の出席者の中に?」
念を押して聞くと刑事はうなずいた。松野は単刀直入に刑事に尋ねた。
「村上さん、あなたは斉田さんは誰かに殺されたと思っているんですか?」
「その件については今の段階では何も言えません」
「でも疑っている?」
「ノーコメントです」