Chapter・1 運命の始まりのメロディー

慌てて白猫を追いかける。白猫は頂上に着くと、何事もなかったかのように大木の根元で丸くなった。僕は軽く息を切らしながら、少し遅れて大木にたどり着いた。

すると、丘以外の周りは森になっていた。僕がいた町も見当たらない。延々と森が広がっている。僕は呆然としながらも、冷静に状況を確認しようとした。が、やはり混乱していたらしい。

「さて、猫くん。ここはどこだい? 僕のいた町はどこに消えてしまったんだい?」

話せるはずのない白猫に向かって質問をしてみる。

「にゃー」

白猫はというと、こちらをちらりと見て鳴いただけなのであった。白猫に聞いても埒が明かないので、とりあえず頂上から降りて、周囲を探索することにした。周囲は深い森に囲まれている。ひとまず、丘を時計回りに一周してみることにする。

四分の三ほど回ったところで、右手の丘の麓のところに扉があることに気づいた。さすがにいきなり開けるのは気が引けたので、ノックをしてみた。返事はない。念のため、もう一度ノックする。しかし、応答はない。

「さて……。勝手に入って良いものか……」

扉の前で立ち竦む。かといって、このあたりで人のいそうな場所がある気配はない。どうしたものか……。

「やはり、勝手にお邪魔させていただくしかないか……」

僕は、思いきって扉を開けることにした。ただし、鍵が開いていればの話だが。とりあえず、開けて声をかけてみよう。誰かいれば反応があるかもしれない。

「失礼しまーす……。誰かいませんかー?」

そっと扉を開く。扉は簡単に開いた。しかし、返事はない。

最初に視界に入ってきたのは、壁一面びっしりと本で埋まった本棚と、部屋の中央にガラスの蓋をして置いてあるジグソーパズルだった。ジグソーパズルはなんだかキラキラしている。

覗き込むと、先ほど見た空と同じ様子のジグソーパズルがあった。さっき見た時と同じように、一部が欠けている。僕は、驚きと困惑を抱きながら大きく目を見開いた。

ジグソーパズルをしばらく見つめた後、僕の視線は、本棚に向かった。僕は本が好きだ。特に好きな著者はいないが、本を捲めくる音や、本特有のあの匂いが好きだ。そんな僕の目の前にさまざまな言語の本が、言語ごとに並べられている。まるで、好物のエサを目の前にぶら下げられている気分だ。

「どれも読んでみたい……」

勝手に上がり込んで、勝手に読んで良いわけがない。しかし、とうとうタイトルに負けて、本を手に取ってしまった。本の背表紙には、『空想の世界〜夢と現実のはざま物語〜』とある。そっとページを開いてみる。どうやらこの小説の主人公は女性のようだ。女性が夢の中で旅をしながら絵を描いていくストーリーらしい。

そういえば、そもそも今いるここは現実なのだろうか? 今まで見てきた光景は、まるでおとぎ話のように思える。どうやらここは、謎が謎を呼ぶ場所のようだ。