第四章 農家に嫁ぐ
一恵の家には、結里亜の他に二人が呼ばれていた。義父母と二世帯住宅で暮らしているという麻生みどり、二十歳でお嫁に来たという加賀美涼子もいた。
結婚式場でプランナーをやっているという一恵は社交的だった。四人の中では一番年上の二十九歳だ。ケーキやコーヒー、漬物、それからオシャレなグラスの中にシャインマスカットや桃、ブルーベリーやグレープフルーツがゴロゴロと入った紅茶もあった。
「紅茶の中に、たくさんのフルーツが入っているのね、はじめて見た」
と結里亜が一恵の顔を見て言うと、
「あっ、これね、うちで作っているシャインマスカット。そのまま食べた方がおいしいのはわかっているけど入れてみたの。せっかくだからアレンジしようと思って桃やグレープフルーツも入れちゃった」
と一恵が言う。
「いいなあ、器もオシャレだね、私もお嫁に来る時、食器はいっぱい持って来たけど、他の食器があるから並べられなくて」
と結里亜が言うと、涼子が
「私ね、何もできないままお嫁にきたけど、お義母さんがね、料理はすぐにできるようになるから大丈夫、台所も使いやすいように好きに変えていいよって最初に言ってくれたの、だから食器も半分は入れ替えたよ」
と言う。
「へえ、それはうらやましいわ」
と結里亜。
「お義母さんは、自分が苦労したからお嫁さんには同じ苦労はさせたくないってさ」
と言う涼子に
「涼子さんのお義母さんは優しいのね。それに台所も使いやすいように変えていいなんて……うらやましい。このあたりの家はどこも封建的なのかと思っていたけど……」
と結里亜が言うと、
「そんなことないよ」
とみどりが口を挟んだ。
「だいたい、封建的な家なんて今あるの?うちのおばあちゃんは近所の人を呼んでよくお茶飲みしているから、新しい情報をいっぱい取り込んでいるよ」
と一恵が続けた。
「結里亜さん、何かあったら言ってね、力になるよ。ここで長い付き合いになるかもしれないしさ」
とみどりが言うので、
「ありがとう、心強いわ」
と結里亜。
「それにこのメンバーは口が堅いから、ここで聞いたことは外に漏らさないからね、大変なこともあるかもしれないけど、一人で我慢しないようにね」
と涼子。時間を忘れるほど話は盛り上がっていた。ふと時計を見ると十二時五分前。
「あー、こんな時間。帰ってお昼の用意をしなきゃ」
結里亜があわてていると、
「お昼は自分たちで食べてくださいと言えばいいじゃない」
と一恵が言う。
「それがそうもいかなくて」
と言う結里亜に、
「今はぶどうの時期でもないし忙しいことはないと思うけどなあ」
と涼子が言う。
「わかっているけど仕方ないのよ、三食作るのは嫁の仕事と言われているから」
と結里亜は帰り支度をしながら言った。