第2章 ナイスデイへの歩み

TC (治療共同体)

TCというのは聞きなれない言葉だと思います。これは集団療法として最近話題になっている治療法です。

Tは()ラピー治療のT、Cはコミュニィティ(共同体)のCです。薬物依存症や刑務所に収容されている受刑者などを立ち直らせるためには、精神分析的方法ではあまり効果がなく、他に良い方法がないので、このTCが採用され、話題を呼んでいました。ある程度効果を上げていることからテレビでも取り上げられているのでご存じかもしれません。

しかし、デイケアの集団が治癒的になるなんて夢のまた夢です。このTCという考え方で、ナイスデイの変化を説明できるのではないかと、すごく期待して関係の本を調べました。『治療共同体実践ガイド』(藤岡淳子編著、金剛出版)を読んで、やはりTCかもしれないと、実感しました。

ただし、デイケアの取り組みが、果たしてTCと言えるのか、迷いがあったので、確認する必要を感じました。そこでその本から専門家を見つけメールしてみようと探しました。TCのパイオニアの大学准教授を見つけ︑ナイスデイで起こっていることを(まと)めてメールしました。すると温かい返事を貰い、嬉しかったです。

「長い長い、そして意欲的なデイケアの試み心より尊敬し、また勉強になりました。ライフストーリーを載せてもらうこと(誰かに聞いてもらうこと)はとても良い語りの場だったのだなと感じました。『逆転の発想』でデイケアのスタッフの終礼のやり方を変えたところ、デイケア自身の雰囲気が変わったという点については、TCでも説明できますが、援助職の組織論のほうが理論的によく説明できる気がします」

と言う返事がきました。この援助職の組織論とは、介護や医療で援助職に就いている者はその専門職を超えて相手の立場と同じ地平に立ち、共に悩み解決しようとするべきだという組織論、要するに援助職も仲間として共に悩んで解決に参加すべきだという思想のことです。このことにより施設の雰囲気が活性化すると言われています。

「このほうが理論的によく説明できる気がします」

とありましたが、これに対して

「確かにその面はあると思います。ただナイスデイが活性化して治癒的になった時のことですが、こちらの予想をはるかに上回る変化が起こってきました。場の雰囲気が感激の涙で包まれるようになっていったのです。それはまことに強烈な体験でした。

変な話ですが、キリストが降臨したのではないか、恐怖というか畏怖を感じたのです。子供の時のある新興宗教での出来事を思い出しました。人々が集団で救いの境地に入ることを経験したことです。この経験があまりに強烈だったので、単に援助職の組織論ではかたづけられないと思っています」

と返事をしました。