その打ち明け話を聞いて京子も伸子も一瞬黙り込んだ。そして次の瞬間二人は同時にげらげら笑いだした。
「あなたって天才的な嘘つきよ。それも人を担ぐことだけが趣味のね」
笑いにむせながら京子が言った。
「そのことって、叔父ちゃんのお姉さんやお母さんは知ってるの」
伸子が真面目な顔に戻って尋ねた。
「知らないさ」
俊夫は肩をそびやかしていったものだ。誰にもいったことはない。絶対に身近なものにも打ち明けられない秘密というものが人には一つや二つはあると思う。そして、俊夫にとってはまさにこれがその一つだった。
「君たち二人が僕の秘密を知るたった二人だけの存在だ。誰にもいわんでくれよな」
その深刻な表情がまた二人の笑いを誘った。そして以来、俊夫は二人にとって大人子どもとなり、そして伸子は息子の症状を心配しなくなったのだ。
あの時は笑い転げただけで何も考えなかった。だが、また大人子どもを持ち出されてふと俊夫は考える。ひょっとすると、髭を伸ばそうと決心した心の裏にはそんな自分に脅える別の自分がいたのかも知れない。多分、京子のデリカシーがそれを察し、俊夫を気遣ってそれを受け入れたのだ。