智洋は再び校舎に目をやった。
二人の男の姿が見えた。近づいてくる。在校生か。髪が長い。違うか。若い、少なくとも、おじさんではない。教師でもなさそうだ。あの制服ではない。
一人は背が高い。もう一人は、ずんぐりしている。二人とも、ジャケットにスラックス、ネクタイはしていない、黒っぽい色のセーター。メガネ。
「それにしても、怒られるとは思わなかったなあ、一浪して國學院とは、おまえね……なんてさ」
「エドさんの出身大学だからね、歓迎されてもいいかなとは思う」
「そう、それくらいに思っていたのに。一浪するくらいなら現役で入れって。浪人した甲斐がないじゃん、なあ……」
ズングリがノッポに向かってグチっぽく続ける。
「おたくは、青学だから、何にも言われず、よかったな、って。なんで、おれ、怒られちゃうんだ、後輩になったんだぜ」
「まあまあ、しかし、結局は、二浪せずによかったって言ってくれた」
ノッポは、ズングリを慰めているようだった。
「それはそうだけとさ……、でも」
そこで、男たちは、門の真ん前に立つ智洋に気がついたようだった。回避しようとする動きの二人に、智洋は声を掛けた。
「あのぉ……」
咄嗟に話しかけてはみたものの、次の言葉が見つからない。
「ちょっと、訊きたいんですけど……」
二人は歩みを止めた。
何を訊けば、どう、訊けばいいのか……。
「はい」
二人の返事がシンクロした。
智洋は、思わずクスっと笑った。
「なんか、おかしなこと言ってましたか、ぼくたち」
「ごめんなさい」
ズングリ男の咎める口調に、智洋は、慌てて謝った。
「こちらの学生さん?」
「ええ、正確には卒業生ですけど」と、ノッポ。さらに、「学生ではなくて、生徒ですけどね、高校生までは。学生というのは大学生のことで、ぼくら、まだ正式には大学生ではないので。四月から、来月から、生徒ではなく学生になります」。
智洋は、今度は声には出さず、笑った。まるで、生駒さんみたい、この、妙に正しい理屈っぽさ……、緊張が少し解けた。