下町の工場の経営者は羽振りがよく、麻尾の家は派手な造りであった。家も鉄筋の豪華な三階建てであり、麻尾晋平と昭恵の母、花子がチワワを抱いて登場した。
「プランマシーのケーキ、うちはいつも食べてるけど、皆さんにも食べてもらおうと思ってね」
「そこのヘルメスのバックに入ってるわ」と、さりげなく、持ち物を自慢する。
家の前にドイツ製の高級車が止まり、そこから派手ないでたちの父親麻尾一郎も登場した。カーボーイハットにサングラスをしている。
「晋平、昭恵、おかえり、今日は、お友達を連れてきたのかい。みんな、ゆっくりしていきなさい」
母親も出てきて、真理を見て、
「あなたが真理ちゃんね。この間は、昭恵ちゃんが間違えたみたいで、ごめんなさいね。うちは、コシダ・ジュンのものがたくさんあってね。でもみんなお高いから、娘にも触らせないようにしてたのね。それをあなたが持ってたので、びっくりして勘違いしたみたい。まさか、あなたのおうちにあるなんて、思ってもみなかったのね」
「あのハンカチなら、うちには結構あるんですよ」
「そんな、無理して言わなくてもいいのよ」
真理は、佑介に向かって、「ほんとなのにね」と言いながら、生意気なウィンクをした。
佑介も、「いいよ、そんなの気にするなよ。それより、メシシのユニフォームはどこ」と、興味はメシシのユニフォームにしかない。
晋平は、「これだよ。パパが、買ったんだよ。高かったみたいだけど」
佑介は、かじりつくように近づいて見た。
「あんまり近づくなよ、高かったんだからな」と晋平から言われても、佑介は、「分かってるよ」と言いながら、いつか自分もメシシと対戦できたらと考えていた。対戦を妄想しているうちに、つい、ユニフォームに向かってヘディングしそうになり、「だから、やめろってば」と晋平は必死で佑介を押さえて、(こいつ、ほんとにやばい奴だな)と思った。